TIME LIMIT〜学歴編〜 3〜須本視点〜





「大樹さんは反抗期とか無かったんでしょ?」


明菜ちゃんがスコーンにクロテッドクリームを塗りながら聞いてくる。


「…そんなことないよ」

「え?あったの?意外〜。うっせぇクソババアとか言ってたの?」

「そういう反抗ではなかったかな…」




いつから自分の進路に疑問を抱くようになったんだろう。


中学の時は真っ直ぐただひたすら上を見てた気がする。

でも、次第にどいつもこいつも口を開けば東大東大東大と、耳にタコが出来るくらい言われ続け期待され続けて。

徐々に嫌になってきた俺がいた――



 

 

 




「これはどういうことだ」



俺が初めて父親に呼び出されたのは高校3年の春だった。

リビングのテーブルの上には先日の模試の結果が置いてあった。

受験勉強なんてほぼしてない俺の、ボロボロな結果が記載されたそれが……


「医学部は諦めたのか?」

「…そのつもりはないけど」



高校に入ったあたりから、俺はぶっちゃけやる気がなくなっていた

受験勉強以外が無性にしたくなった。

何でもよかった。

税理士の資格を取ったのも、気象予報士の資格を取ったのも、俺の密かな抵抗だったのかもしれない。



「ならそろそろ本腰入れないと…、本当に間に合わなくなるぞ」

「…そうだね」


父親に溜め息を吐かれる。

姉が私立の医学部に通ってる我が家。

年間500万以上かかる学費は1人なら何とかなる。

だけど2人となると流石に厳しいんだろう…、それくらいは俺にだって分かる。


「心配しなくても国立には行くから」

「この成績でか?」


模試の結果表を指さされる。

適当に書いた志望校の判定は、ほぼDE

地方の最下層の国立でようやくC判定という情けない結果が記されていて、父親の焦燥する気持ちも分かる。

でも、この成績でも俺の方は全く焦っていなかった。

むしろここからどれだけ挽回出来るか、この父親に見てもらいたいくらいだ。


「あまり受験を舐めないほうがいいぞ」

「そうだね…、そろそろ始めるよ」


国立には行く。

その代わり――


「大学は一人暮らししてもいい?」

「それは好きにすればいい」


あともう一つ。

これは絶対に伝えておかなければならない。


「医者にはなるつもりだけど、病院は継ぐつもりないから」


父親は顔色一つ変えなかった。


「お前の人生だ。好きにすればいい」

「…そ。じゃ、そういうことで」


俺がリビングを出ていくと、キッチンにいてずっと話を聞いていた母と、啀み合う声が聞こえてきた。




高校3年になってからようやく真面目に受験勉強を始めた俺。

順調に成績は上がっていき、共通テスト直前の模試では、東大理
VですらB判定まできていた俺がいた。


(でも一人暮らししたいからなぁ…)

(安全策を取る面でも、神戸か福岡あたりが無難かな…)


共通テストが終わり、結局九大を受けることにした。


 

 

 

 



「え?!お義父さんに病院継がないって言っちゃったの?!めっちゃ反抗してるねvv」

何故かテンションが上がってる明菜。


「あー…その気持ちは分かるかも。オレも実家だけは絶対継がないって思ってたからな」

櫻井が同意してくる。

「須本んちは小児科だからまだいいよ…。オレんちなんて産婦人科だぜ?高校までは絶対嫌だって思ってた」


思春期の男には流石にキツすぎたらしい。

でもむしろ中高生の時から産婦人科を継ぐ気満々の男の方が怖いと思うけど。



「でも大樹さん、今は実家の病院継ぐ気なんでしょ?」

「うん。大学で6年間学んでみて、結局自分には一番小児科医が合ってるような気がしたんだよな」

「うん、ピッタリだよね♪」

「それならもう実家を継ぐのでいいかって…、思い直した感じかな



大学卒業してこっちに帰って来たあと、両親に改めてその意思を伝えてみた。

父親は相変わらず「好きにすればいい」という感じだったけれど。

でも実は嬉しかったと、父親が本心を教えてくれたのはそれから何年も経ってからのことだ。

実はあの散々な模試結果を見て、めちゃくちゃ内心焦ってたことも教えてくれる。


「でも最後ちゃんと仕上げてくるところは、流石静香さんの息子だと思ったよ」と。


俺と同じで恋愛結婚な俺の両親。

父親は地元・千葉大卒だけど、母親は東大卒だ。

小児科専門研修時代に出会って交際を始め、数年後に結婚したと聞いている。



「将来大樹さん似の息子が産まれて、反抗期が来たらどうしようかな〜vv」

もしテストで赤点取ってきたらどうしよ〜とニマニマしてる明菜。


「その時は俺に教えて?シゴくから」

「スパルタな大樹さんになっちゃうのねvv」


基本進学も就職も結婚も自由にさせてくれた放任主義な俺の両親。

それだけに、あの呼び出された高3の時、本当は内心嬉しかったのは絶対に内緒だ――



 

 


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