●TIME LIMIT〜大3編〜 2●





「「いただきます」」



何度も脱線し、なかなか完成しなかった夕飯がようやく出来上がり、私達は一緒に食べ始めた。

食事中の飲み物は、やっぱりいつも通りミネラルウォーターな彼。


「そういえば一ノ瀬もビールとか飲むんだね…。今は気分じゃないの?」

「ビール?」

「冷蔵庫に入ってたよ」

「ああ…あれはオレが買ったんじゃないよ」


一昨日にこの部屋に大学の友人数人が遊びに来ていたらしい。

夜は飲み会みたいにもなって、一ノ瀬もお酒好きの友人にしぶしぶ付き合ったのだとか。


「オレも飲めなくはないけど、あんまり美味しいと思えないんだよな」

「ふーん、まだ味覚がお子ちゃまなんだね」


一ノ瀬がムッとする。


「進藤だって同じだろ?」

「まぁね。家では飲まないかな」

「……外では飲んでるのかよ?」

「たまにだよ。飲み会に誘われた時だけ」

「飲み会って……合コンじゃないだろな?」

「まさか。同じ学科の子達とたまに放課後に寄ってるだけだよ」

「ふぅん…ならいいケド」

「一ノ瀬だって誘われるでしょ?医学部って年上多そうだし」

「まぁ4割が浪人だしな」

「へぇ…」

「飲み会や合コンが好きなグループもあるけど、オレはそういうの苦手だし。オレが普段仲いい奴らもあんまり飲まないよ」

「ふぅん…一ノ瀬の友達に一度会ってみたいな」

「いいよ。明日予定聞いてくる」

「え?明日も授業あるの?」

「うん…ごめん。一限だけだから昼前には帰って来れると思う」

「分かった…」


仕方のないことだけど、やっぱりちょっと寂しい。


「明後日は…?」

「明後日は土曜だし、もちろん休みだよ。日曜も」

「よかった」


土日は朝から晩まで思いっきりイチャイチャしよう。

どこかに出かけてデートもしたいなぁ♪










その晩はもちろん一緒にお風呂に入った。

一ノ瀬の部屋に泊まってる時は毎回そうだ。

狭いユニットバスのお風呂だから密着度が半端ない。

当然キスもしまくり、体もお互い触りまくりだ。


「…は…進藤、ちょっとだけ挿れてもいい…?」

耳元で囁かれて求められる。

「ん……ちょっとだけね。中で出しちゃダメだよ…?」

「分かってる…」


了承するとすぐに彼が入ってきた。

熱さと暑さと気持ちよさで訳が分からなくなる。

体勢が崩れないようぎゅっと彼にしがみついた。


「……ぁ……私もう……」

「オレも……」


たいして動いてないのにもうお互い限界になる。

達する直前に彼は私の中から引き抜いて――外に出した。

荒い呼吸を整えながら、私は美鈴の言葉を思い出す。



『妊娠しないようにね』



確かに初日からこれじゃあ先が思いやられる気がした。

でも、だからといって拒否出来るほど私の理性は強くない。

なんせ3ヶ月ぶりの生の一ノ瀬だ。

たったの10日しか一緒にいられない。

これが終わったらまた何ヵ月も会えないのだ……


「進藤…?」

「一ノ瀬…遠距離って辛いね…」

「……そうだな」

「あと3年8ヶ月もあるんだね…」

「……うん」

「会う度にこんなエッチしてたら……そのうち妊娠しちゃうかもね」

「……そうだよな」

「そうだよなって……一ノ瀬本当に分かってる?」

「分かってるよ。でも気持ちが抑えきれない……直に進藤に会うと我慢出来なくなる」

「一ノ瀬……」


辛そうな顔をした彼が、顔を私の肩に置いてくる。


「お互いの夢の為には……ちゃんとした方がもちろんいいんだろうけど」

「……そうだね」

「でも……なんだろう。オレももう21だし、何とかなるかも…って思ってる節もある」



――え?



「オレの上の兄貴、今年33になるんだけど」

「うん…」

「結婚してもう8年にもなるのに全然子供出来ないし」

「……」

「下の兄貴は今年三十路だけど、仕事人間でずっと研究室にこもって、今まで一度も彼女すらいたことないし」

「…そうなんだ」

「何だろう……もしデキても、意外と歓迎されるかも?とか甘いこと考えてる自分がいる。まだ学生のくせに何言ってるんだろな。進藤のお父さんが聞いたら殴られるよな…きっと」

「…一ノ瀬は優しいね」

「え?」

「ご両親に孫を抱かせてあげたいんだね…」

「……」


一ノ瀬と付き合ってきたこの二年半、彼の話を聞いてきて……私も薄々気付いていた。

病気がちな一ノ瀬のお父さんは……きっと私達が結婚するまで生きていない。

私達が卒業して、働きだして、仕事が軌道に乗ってから結婚して、それから子供を作るとなると、まだ10年近くかかる。

私達はきっと孫を抱かせてあげることが出来ない。

せめて一ノ瀬のお兄さん二人が叶えてくれたらいいけれど、今のままじゃそれもどうなるか分からない。

優しいなぁ……と思った。

そんな一ノ瀬が私は大好きだ。


「…じゃあこの10日間、何も考えずにしてみる?」

「え…?」

「私はいいよ」

「進藤……」


ありがとう。

でも、やっぱり駄目だよ……と一ノ瀬は拒否をした――









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