●TIME LIMIT〜大3編〜 1●
「いよいよ明日だね」
『だな。楽しみにしてるな』
「私も♪」
一ノ瀬と付き合い始めて3度目の夏がやってきた。
ようやく私の大学も夏休みに入り、私は明日彼に会いに福岡に出発する。
電話を終え、荷物の最終準備をしていると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
ガチャっとドアを開けると、いつも通り私の親友が立っていた。
「千明、準備終わった?」
「もうちょっとかな」
毎日のようにお互いの部屋を行き来している私と美鈴。
夕飯も一緒に食べることが多く、今日は私が作る番のはずだった。
でも明日の準備もあったので、まだ夕飯には取りかかれていない。
もちろん美鈴は私の予定は分かってるので、「夕飯パスタにしようよ〜」と私の代わりに台所に立って作り始めてくれる。
「ごめんね、ありがとう…」
「いいっていいって。早く準備しちゃいなよ」
「うん…」
「今回は何泊するんだっけ?」
「お盆に一緒に帰って来る予定だから…10泊かな」
「ひゃー、妊娠しないようにね」
「な、何言って…っ」
「だってどうせ毎日するんでしょ?10日もあったら絶対危険日跨ぐじゃん」
「き、危険日って……」
私の顔はみるみる真っ赤になっていった。
そ、そりゃあ確かに一ノ瀬に会うのはGW以来、3ヶ月ぶりだ。
美鈴の言う通り、会えてる期間はいつも毎日のように体も合わせている。
おそらく今回もそうなるだろう。
確かに10日もあったら危険日……つまり排卵日と被る日もあるだろう。
(しかも上手いことにちょうど昨日生理が終わったばかりというグッドタイミングだ)
油断していたら確かに妊娠するかもしれない……
「あーあ、私も妊娠するほど毎日エッチがしてみた〜い」
「美鈴ったら…」
美鈴にももちろん彼氏はいる。
彼女が今付き合ってるのは4つ年上、25歳の社会人。
交際を始めたのは確か1年くらい前だ。
でも最近彼からの連絡が途切れ気味だという。
「また浮気とかされてるのかも…」
と美鈴が溜め息を吐いた。
私が思うに……彼女はあまり男運がよくない。
美鈴は明るいし可愛いし気が利くし、家庭的で結構尽くすタイプで、私より全然女の子らしいのに。
私から見たら何も問題がないように思えるのだけど……何故か付き合う男性にことごとく二股をかけられたり、浮気されたりしているのだ。
どうしてだろう?
「もう別れようかな…」
「美鈴…」
「千明が福岡から帰って来る頃には私フリーに戻ってるかもね」
「……」
「そしたら千明、私を実家に連れて行ってね」
「え?」
「おじさんに会って心を慰めてくるから!癒されてくる!」
「美鈴ったら…相変わらずだね」
「だっておじさんは私の初恋の相手みたいなものだもん♪超カッコいいもんね!」
「お父さん今年もう42だよ?」
「あんな42歳いないよ!あーあ、どこかにおじさんみたいにカッコいい男転がってないかなぁ〜」
「……」
転がっていないこともないけど……と私は密かに思った。
弟の明人は父に瓜二つだ。
おそらくこのまま成長すれば、正に美鈴好みの『おじさんみたいにカッコいい男』となるだろう。
そして明人が密かに美鈴のことを気にかけてることも私は知っている。
でも……明人はまだ小6なのだ。
まだまだ教えてあげることは出来ない。
せめて明人がハタチくらいにならないと。
でも、その頃にはもちろん私達もアラサーだ。
私はともかく、さすがに美鈴は結婚しているような気がする。
(もし結婚してなかったら教えてあげよう…)
「「いただきまーす」」
美鈴お手製の冷製パスタが完成し、私達は一緒に夕飯を食べた。
明日からは一ノ瀬と一緒に食べることになるんだよね…と、想像したら顔が勝手にニヤけてくる。
楽しみだ――
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