TIME LIMIT〜バイト編〜 1





春休みに入ってから、明菜が怪しい……



「今日は久々に百合子とランチしてくるから」

「うん」

「今日は惣田さんと買い物行ってくるね」

「うん」

「今日は沙也加と映画見てくるから」

「うん(沙也加って誰だ?)」

「今日は実家行ってくる」

「うん。お義父さん達によろしく」

「今日は百合子と遊んで来るから」

「うん…」

「今日は惣田さんと一局打ってくるね」

「う、うん……行ってらっしゃい」



朝食時、今日は何をするかご丁寧に予定を教えてくれる明菜。

毎日毎日出かける妻に、さすがに

(出かけすぎじゃ?)

と俺が違和感を持ったのは、春休みが始まって2週間が経とうとしていた時だった。

いやいや別に休みなんだし、家にいるだけじゃ退屈だろうし、全然出かけてくれて構わないよ?

明菜はまだ19歳だし、毎日出かけたって疲れないくらい体力有り余ってるだろうし。

俺が休みの日は出かけないで、一緒に過ごしてくれるならそれでいい。

そう思っていた矢先のことだった。



〜♪〜〜♪〜〜


朝食中に明菜の携帯が鳴った。

慌ててスマホを持って廊下に移動する彼女。

ドアに近付いて、こっそり聞き耳を立ててみる。


「はい、須本です」

「え?今日ですか?」

「うーん…分かりました。大丈夫です。はい、失礼します」


(これは何の会話だ?)


明らかに電話の相手は友達ではないだろう。

それなのに――


「ごめん、大樹さん。今日出かけて来てもいい?」

「…いいけど」

「百合子にまた誘われちゃって」

「…そう。仲いいな」


(いやいやいや、今の電話絶対百合子ちゃんじゃないだろ!!)

とツッコみたくなった。


朝食を掻き込むように終えた明菜は、それからバタバタと家事をし出して。

メイクして、髪をセットして。

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時頃には「行ってきまーす」と笑顔で家を出発したのだった。



「……よし。尾けるか」


今日は一日休みの俺。

怪しすぎる妻の帰りを、モヤモヤしながら大人しく家で待つつもりはない。

この目でしっかり真相を確かめてきてやる。

明菜がエレベーターに乗ったのを確かめてから、俺も別のエレベーターに乗った。

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階に付いた後、彼女とは30メートルくらい距離を取って後を尾けることにした。

一応変装もしておこうということで、メガネに帽子も被って、マスクして、普段とは違うコートも着ている俺。


(これなら明菜が例え振り返っても、一瞬ならきっとバレない)


ショーウィンドウに映る自分の変装姿に誇らしげになりながらも、

(何してんだろ俺…)

と思わなくもなくて、ちょっと落ち込んだ。



明菜は何で俺に嘘なんか吐いたんだろう。

何で嘘吐く必要があるんだろう。

俺って信用されてないのかな。


結婚して早半年。

俺は上手くいってるつもりでいたけど……明菜は何か不満とかあったのかな……

そうこうしてる間に、明菜がとあるお店に入って行くのが見えた。


(……え?ここって)


家から徒歩10分の距離にあるコーヒーチェーン店。

明菜が店に入ってから10分後。

店員の制服に着替えた彼女が、カウンターに立つ姿を俺は目撃することになったのだった。


(なんだ…、バイト始めただけか…)


なぁんだ…と安心するのも束の間、どうして俺に黙って始めてるんだろうという不信感が湧いてくる。

一言相談してくれてもいいんじゃ?

事後報告だって構わない。

一言「バイト始めた」って教えてくれたらよかったのに……


でも今朝

『百合子にまた誘われちゃって』

と嘘を吐いた彼女。

ということは俺にはバイトのことを知られたくなかったんだろう。


(やば……何かめちゃくちゃショックなんだけど……)


昔恋人に裏切られた時並みにショックを受けてる俺がいた。

あの時は大人しく引き下がっていた俺。

でも明菜だけは絶対に失いたくない。

絶対に引き下がるつもりはない。

決着付けてやる。



帽子とマスクだけ外した俺は、意を決してそのコーヒーチェーン店のドアを開けた――

 

 

 


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