TIME LIMIT〜バイト編〜 2





「いらっしゃいま…せ?!」



店に入って来たのが俺だと気付いた明菜の語尾が上ずる。

明らかに目が泳いで、どうしようと真っ青になってる彼女に、

「カフェラテのホットで」

と注文する。


「は、はい…、サイズは…」

Mで」

「テイクアウトでしょうか?」

「イートインで」

「ですよねー…、530円ですー…」


会計を終えた後、「お待たせしましたー…」とカフェラテを載せたトレイを渡してくる明菜。

受け取って、店内の奥の席にドカッと座る。

もちろん、レジカウンターがバッチリ見える位置に。

俺の方をチラチラ見て、申し訳なさそうな顔をしていた。



「須本さん、大丈夫?」

「あ、はい…」


明菜が店長みたいなリーダーの女性と話し出す。


「ごめんね、急に代わり頼んじゃって。元々入る予定だった河田さん、何か体調不良みたいで」

「そうなんですね…、心配ですね」

「須本さんも予定あったんじゃない?大丈夫?」

「だ、大丈夫です……たぶん」


明菜がチラリと俺の方を見る。


「でも須本さん、バイト初めてって言ってたけど、物覚え早いし接客普通に上手だし、正直めっちゃ戦力。助かったわ〜」

「そうですか?よかったです…」

「将来は看護師になりたいんだっけ?」

「あ、はい…」

「看護師もある意味接客業みたいなものだしね。ここでの経験が将来活きるといいね」

「そうですね…」

1ヶ月だけと言わず、こっちとしてはもっと続けて欲しいんだけど」

「…すみません。授業との両立はなかなか難しくて…」

「土日どっちかだけとかでもいいよ?土日は特に人手不足だし」

「うーん…」


明菜はどうやら1ヶ月限定でバイトを始めたらしい。

どうしてだろう?

店の壁に貼っているアルバイト募集の掲示には、時給1400円と書いてある。

例えば15時間、週54週間働いた場合の給与は14万だ。

(欲しいものがあるのなら、それくらい渡してる家族カードで払ってくれていいのに…)



「あ、そういや彼氏への誕プレ買いたいんだよね?何買うの?」



(―――え?)



「店長!!」


明菜が慌てて彼女の口を塞いだ。

「今余計なこと言わないで下さい!」と……


(彼氏への……誕プレ?)

(彼氏って誰だ??)


耳まで真っ赤になってる明菜と正反対に、俺の顔は真っ青になった

それってつまり……浮気?



「違うの!違うから大樹さん!」


明菜がカウンターから出て、もう半泣きの俺の方に慌ててやってくる。

「ごめんなさい!バイト先の人には結婚してるって言ってなくて、だから彼氏ってことになってて…」

「…そうなんだ」


確かに19歳の女子大生のパートナーといえば普通は「彼氏」だろう。

1
ヶ月で辞めるつもりのバイト先に「夫」がいるなんていちいち説明する必要はないと思う。

(ちょっとショックだけど…)


でも、そうだとしたら、さっき店長が言っていた『彼氏への誕プレ』の彼氏は俺ということになる。

え?俺への誕プレ?

そういや俺の誕生日来月だ……



「明菜…、もしかして俺へのプレゼントを買うためにバイトしてくれてたの…?」

「……うん」


恥ずかしそうに、そしてバレて残念そうな顔をしてくる彼女。



(うわ……ヤバ……)



めちゃくちゃ嬉しい。

嬉しすぎて、今すぐ明菜を抱き締めたくなる衝動にかられる。

でもそれはさすがに今したらダメだろう。

明菜は仕事中だ。


「そういうことなら…分かった。じゃ、頑張って」


カフェラテを飲み干した俺は、帰る為に立ち上がった。

店を出かけたところで、店長の

「え?もしかして今のお客さまが彼氏?めっちゃイケメンじゃん!!」

いいなー!という声が聞こえた。



尾行していた行きと違い、帰りはすごく体が軽い。

そういえば明菜は何時に帰ってくるんだろう?

今夜は彼女の好物の夕飯を作ってあげようかな、と笑顔でスーパーに寄って帰る俺がいた。


 

 

 

 

 



「ただいま…」



夕方16時前になって明菜が帰って来た。


「お帰り。お疲れさま」

リビングでタブレットを弄っていた俺のもとに、直ぐ様やってきた明菜が

「バイトのこと黙っててごめんなさい…」

と謝ってきた。


「大樹さんを驚かせたかったの…」

「そっか…」

「大樹さんは何でも買っていいよってカード渡してくれてるけど、やっぱり誕生日プレゼントは自分のお金で買いたかったの」

「…そうだよな。俺も疑ってごめん」

「バイト続けてもいい?あと2週間だけだから…」

「いいよ…、もちろん。でも明菜が続けたいのなら、別に辞めなくてもいいよ。店長さんも土日どっちかだけでもって困ってたみたいだし

「いいの?」

「学業に影響が出ない程度ならいいんじゃない?」

「ありがとう大樹さん…!大好き!」


明菜が俺の胸にギュッと抱きついてきた。

俺も直ぐ様抱き締め返して…髪にキスした。

もちろんそれだけでは足らず、そのまま押し倒して彼女と熱い休日を過ごしたのは言うまでもない。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



3
20日――俺の32歳の誕生日。



「大樹さん、お誕生日おめでとう!」


明菜が朝一にプレゼントの箱をくれる。


「ありがとう。開けてもいい?」

「うん♪」


その正方形の箱の中身は――財布だった。

(しかも俺の好きなブランドの…)


「デパートなんてあんまり行かないから緊張しちゃった」

えへへ…と可愛く笑う彼女を直ぐに抱き締める。


「めちゃくちゃ嬉しいよ…、ありがとう…」

「ホント?よかった〜」

「大切に使うから」

「うん♪」



結婚して初めて迎えた誕生日。

来月の彼女の誕生日には、絶対倍返ししようと思う俺がいた――

 

 

 

 

 

 

 

 


END

 

 

 


以上、須本君への誕プレを買うためにこっそりバイトを始めた明菜のお話でした〜。
須本君視点で書いたら何だかギャグ風に(笑)

大樹さんへの誕プレを大樹さんのお金で買うのは何か違うし、両親から貰った貯金から出すのも何か違うし…ということでバイトを始めた明菜です。
実は愛ちゃんと同じコーヒーチェーン店です。(店舗は違う)
驚かせたいのは分かりますが、やっぱり黙ってバイトするのは駄目だよね〜というお話でした。
誕プレのことは隠して、春休み暇だからバイトしたいって普通に話せばよかったんじゃ?と思いますね(笑)


櫻井君も愛ちゃんの店にデート前に通ってましたが、今後はきっと須本君も通うことでしょう(笑)
そして明菜が他の男性客に笑顔で接客してる姿を見て一人ムカムカしてることでしょう。
そして明菜は明菜で、須本君が女性客に話しかけられてるのを見てムカムカすると。
櫻井君&愛ちゃんと全く同じパターンですな(笑)