●TIME LIMIT〜明菜AI編〜●
次の土曜日。
いつものように代々木の須本の部屋を訪れた明菜は、リビングのソファで彼の腕に包まれながらも、どこかそわそわとしていた。
「明菜ちゃん、どうしたの?
今日、なんか少し元気がないっていうか、落ち着かないね」
須本が覗き込むようにして、明菜の髪を優しく耳にかけながら尋ねる。
彼の瞳は今日も明菜への愛おしさで溢れていた。
明菜は、一昨日に渋谷のカフェで親友の百合子からバシッと言われた言葉を思い出していた。
『避妊。ちゃんとしてもらいなよ。毎回、絶対に、100パーセントね。あんたの家系、一歩間違えると愛の暴走機関車なんだから』
(うう、やっぱりちゃんと言わなきゃ。でも、すごく恥ずかしい……!)
胸の奥がキュンと引き締まり、顔がみるみるうちに赤くなっていく。
明菜は須本の広い胸元に額を押し付けたまま、意を決して小さな声を絞り出した。
「あのね、須本さん……。一昨日、高校の時の親友の百合子と会ったの」
「うん、K大の経済に行ったっていう、しっかり者の百合子ちゃんだよね?何かあった?」
「う、うん……。それでね、須本さんとのことをちょっと惚気たら……あの、すごく怒られちゃって……」
「えっ、俺、嫌われちゃった?」
須本が少し焦ったように声を上げると、明菜はぶんぶんと頭を振った。
「違うの!
そうじゃなくて……っ。百合子、すごく現実的な子だから、『あんたはまだ看護学科の一年生なんだからね』って……。その、『避妊だけは、毎回絶対に、100パーセントちゃんとしてもらいなよ!』って、ものすごい勢いでビシバシ言われちゃって……///」
最後まで言い切ると、明菜の顔は完全に沸騰寸前になった。
恥ずかしさのあまり、須本のシャツの胸元をぎゅっと握りしめ、顔を上げられなくなってしまう。
リビングに、一瞬の静寂が訪れた。
普段はどんな医療の現場でも冷静沈着な天才小児科医の須本だったが、まさか19歳の恋人の口から、その親友直伝の「超現実的な大人のアドバイス」が飛び出すとは思っていなかった。
「……そっ、か……」
上から聞こえてきた須本の声が、明らかに動揺して、いつもより少し高くなっている。
明菜が恐る恐る顔を上げると、そこには、耳の根元まで真っ赤に染めて、片手で口元を押さえている須本の姿があった。
31歳の男が、高校生のように純情に照れまくっている。
「す、須本さん……?」
「いや……ごめん。あはは、さすが明菜ちゃんの親友だね。……本当に優秀で、ぐうの音も出ないほど正しいよ」
須本は赤面したまま、少し照れくさそうに、けれど慈しむような深い眼差しを明菜に向けた。
そして、彼女の小さな身体を、今度は壊れ物を扱うように、より一層きつく、優しく抱きしめ直した。
「明菜ちゃん、不安にさせてごめんね。百合子ちゃんの言う通りだよ。俺、31なのに、明菜ちゃんが可愛すぎて余裕がなくなっちゃうことがあって……。でも、君の未来を誰よりも大切に守るのが、俺の義務だから」
須本は明菜の髪にそっと唇を寄せ、低く甘い声で誓うように囁いた。
「約束する。もちろん、100パーセント絶対に守るよ。明菜ちゃんが安心して、俺の胸の中に飛び込んできてくれるようにね」
「須本さん……っ」
その誠実な言葉と、抱きしめる腕の力強さに、明菜の胸は嬉しさと愛おしさで破裂しそうになった。
百合子に怒られた時は恥ずかしさしかなかったけれど、こうして二人の未来を真剣に考えてくれる須本さんの優しさに触れて、改めてこの人を好きになって良かったと心から実感する。
「うん……ありがとう、須本さん。私、須本さんのそういう優しいところ、本当に大好き……」
「ずるいなぁ、そんなこと言われたら、また俺の理性が頑張らなきゃいけなくなるよ」
須本は困ったように笑うと、明菜の顎をそっと指先で持ち上げ、いつものように、けれどいつもより少しだけ情熱的なキスを重ねた。
窓の外に広がる代々木の景色が少しずつ夕暮れに染まっていくなか、二人はお互いの大切さを改めて確かめ合いながら、甘くて愛おしい時間をどこまでも深く紡いでいくのだった――