TIME LIMIT〜明菜編〜 5〜須本視点〜





「自分の試験より緊張するな……これ」



運命の合格発表日がやってきた。

休みだった俺は朝から部屋の中をうろうろソワソワしていた。


午前10時に専用サイトで合否を確認出来るらしい。

チラリとチェスト上の時計を見ると、10時ちょうどになったところだった。

明菜ちゃんは今頃もちろん確認してることだろう。


時計横の写真立てが目に入り…、思わず手に取った。

それは一ノ瀬の結婚式で撮った1枚の写真。

俺と明菜ちゃんが一緒に写ってる…唯一の写真だった。


『受験が終わったら、ちゃんとしたツーショット写真を撮りに……どこか一緒に行きませんか?』

と提案してくれた彼女。

俺も受験が終わったら彼女に想いを伝えるつもりでいる。


好きだと――

 

 


彼女の18歳の誕生日に再会した時は、もちろんこんな気持ちは持っていなかった。

ただ俺に一目惚れして好きになって貰いたいという、邪な気持ちばかりあった。

好きになってさえ貰えたら……後は全て上手くいくと思っていた。

家庭教師に名乗り出たのも、彼女にただいい印象を与えたかったからだ。


でも、時間を共にすればするほど、俺と一緒の大学に入る為に一生懸命頑張ってくれる姿を見れば見るほど――彼女を愛おしく思うようになっていった。

次第に何をしてても彼女のことで頭がいっぱいになって、彼女のことを考えれば考えるほど胸が苦しくなっていった。

こんな気持ちになったのは……ぶっちゃけ高校の時以来かもしれない。


高校の時からの恋人に裏切られたことで、俺は恋愛に臆病になって、傷付くのが怖くなって……自然と自分を守るようになった。

本気で人を好きになるのを避けるようになってしまったんだ。

だから大学4年の時から付き合った恋人にも、合コンで出会って一度は結婚も考えた恋人にも……こんな気持ちは抱かなかった。


(この歳でまた恋とか出来るんだな…、しかも一回りも年下の子に…)


想いを伝えたら一体どんな顔をされるんだろう。

もちろん好かれている自信はある。

でも……人の気持ちほど分からないものはない。

だって今まで付き合ったどの子も、俺のことを口では好きだと言いながら……簡単に俺を捨てていったからだ。


正直……ものすごく怖い。

でも、伝えて後悔するより、伝えなくて後悔する方がずっと嫌だ――

 


「にしても遅いな…」

時計を見ると既に1015分だった。

もうとっくに結果は分かってる頃だろう。


『結果が分かったらすぐ連絡するね!』

と昨日はそう言ってたのに……


(ダメだったのかな…)

(それとも俺より先に他の人達に連絡してるのかも…)


後者ならいいが、前者だったら何て声をかけたらいいんだろう―――そう思っていた時だった。


ピンポーン

とインターフォンが鳴る。

この音は1階エントランスのオートロックの方だ。

慌てて映し出された映像を確認すると――明菜ちゃんの姿が。


『来ちゃった』

と言う声が聞こえ、俺は慌てて解錠する。


エレベーター前に移動して待つこと3分。

チンッとエレベーターが開き、明菜ちゃんが降りてきた。

と思ったら俺の胸に抱き着いてくる――


「受かったよ…」

「え…?」

「合格だって!私、4月から須本さんのいる大学に通うからね!」


笑顔を向けて、結果を見たら居ても立ってもいられなくて来ちゃった、と彼女は言う。

おめでとうって言わなくちゃいけないのに。

良かったなって、頑張ったなって褒めてあげなくちゃいけないのに

それよりも先に俺の口から出たのは――


「好きだ…」

という愛の告白だった。


「明菜ちゃん…大好きだ…」

「須本さん…」


明菜ちゃんが嬉しそうに笑ってきた。


「うん…、私も大好き…」


ずっと好きだったんだよ。

一目惚れだよ。

でも今はもっと好き、須本さんの全てが大好き――と抱き締められる。


「明菜ちゃん…」

「でもソレ先に言われると思ってなかった」

「え…?」

「私、頑張ったんだよ?合格したんだよ?何か言うことは?」


褒めて褒めてと顔に書いてあった。


「うん…おめでとう。よく頑張ったな…、本当に」

「ありがとう…」


こんなエレベーターホールで。

いつ誰が通るのかも分からないのに。


俺らはここで初めてのキスをした――




――おめでとう、明菜ちゃん――

 

 

 

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