TIME LIMIT〜明菜編〜 3〜須本視点〜





大学2年の時、俺は高校の時から4年間付き合った恋人にフラれた

俺が福岡の大学に進学して遠距離になってしまったことが一番の原因だろう。

月に1回会えるかどうかの俺より、毎日会える同じ大学の男を彼女は選んだ。

ぶっちゃけ…、立ち直ってまた恋人を作りたいと思うようになるまで……2年はかかった。


大学4年の時、同じ大学の薬学部の女の子と交際を始めた。

勉強勉強の毎日に息詰まっていた時、ふと思い出したのが一ノ瀬の彼女が言っていた

『大学でも囲碁部なんですか?』

の一言だった。


(もう一度…囲碁部入ってみようかな…)


そこで出会ったのが後の新しい恋人だった。

しかも彼女は東京出身で、大学卒業後は向こうに帰るつもりらしい

薬学部も6年制だし、同い年だからきっと帰るタイミングも同じはず。

今度こそは遠距離にはならないはずだし、大丈夫だと思った。


俺は医学部必須のCBTOSCEも突破し、そして最後の難関、医師国家試験にも無事一発で合格を決めた。

だけど……彼女の方が国家試験にあと数点足りなくて不合格となった。

とりあえず一緒に東京に戻って来たものの、就職した大学病院で研修医として働く俺と、予備校に通う彼女とでは忙しさもルーティンもまるで違っていて……徐々に連絡が途切れ気味になった。


休みが不定期な俺に合わせてもらって久しぶりにデートをした時に

「ゴメンね。他に好きな人が出来たの」

とあっさりフラれた。

聞けば予備校の先生らしい。

毎日のように会って、相談事とか悩み事を聞いて貰ってるうちに親しくなったらしい。

俺が24歳の時だった。


また2年くらい落ち込んで、やっとまたそろそろ次の恋愛でもしようと思い、同僚に誘われて参加した合コン。

「もしかして須本さんて囲碁部でした?」

と声をかけてくれたのが後の新しい恋人だ。

聞けば彼女も囲碁部で、高3の時同じ大会に出てたらしい。

彼女は女子の部で個人優勝していたらしかった。

一気に親近感が湧いて、交際をスタートさせた。


彼女はそこそこ名の通った企業で営業の仕事をしていた。

だからクライアントの要望で土日に出勤することもあるから、平日に代休も取れるらしい。

だからその代休を俺の休みに合わせて貰って、一緒に休日を過ごしたりしていた。

その時俺はもう28歳だった。

2
年も付き合うと自然と結婚を意識するようになる。

もちろん彼女もそのつもりだったと思う。


生まれて初めて恋人を実家に連れていくことにした。

俺の家は代々医者の家系で、両親も祖父も叔父も姉も皆医者だ。

両親は開業医でそこそこハヤってもいたから……ぶっちゃけ生活レベルは普通より上だと思う。

……彼女が怖気付いてるなんて知りもしないで。


自分の両親への紹介が終わった後、次は彼女の両親にももちろん会いに行く気満々だった。

でも、その時彼女は言った。


「私…父親はいないんだ」

「そうなんだ。離婚?」

「…生まれた時からいないの」


聞けば彼女の母親は家庭のある男性と恋に落ち、彼女を産んだらしい。

認知もしてもらえないまま捨てられた彼女の母親。

もちろん養育費なんて貰えてない母子家庭。


「私達…合わないと思う。家の格が違い過ぎて」

「今どきそれって関係ある?」


俺は納得いかなかった。

この令和の時代に家がどうとかなんて気にする必要が本当にあるのか。

彼女自身は素晴らしい人で、それだけじゃ何がいけないんだろう。

俺の親だって反対してない。

それなのに――


「私、同じ会社の人と付き合うことにしたの」

だから別れて。

さようなら――といきなり告げられて、彼女は俺の前から消えた。




「は?またフラれた?」


その晩、俺はいつものごとく一ノ瀬を呼び出してやけ酒に付き合って貰った。

そしていつものごとく

「もう女はいい…、俺もう明菜ちゃんが大人になるまで大人しく待ってる…」

とボヤく俺に

「オマエなぁ…」

と一ノ瀬は呆れ気味だ。


明菜ちゃんとは一ノ瀬が18歳の時からずーっと付き合ってる恋人、進藤千明さんの妹の名前だ。

進藤さんは美人で聡明で優しくて……一ノ瀬は何て羨ましい男なんだろう。

彼女に妹がいると知った時、俺にも紹介してほしかった。

ただ問題はずいぶんと歳の離れた妹だったってことだ。


俺は囲碁界にもそこそこ詳しい。

だから昔大騒ぎになった進藤ヒカル失踪事件のことももちろん知っていた。

塔矢先生との間に子供がいたことも。

もちろん復帰するタイミングで結婚したことも。

その後生まれた子供が今の進藤明人七段だってことも。

明菜ちゃんはその更に後に生まれた妹だ。




一ノ瀬と進藤さんは翌年3月に結婚する。

明人君との合同結婚式に、俺は一ノ瀬の親友として参列していた。

そこで俺は初めて彼女の姿を目にすることになる。


(この子が明菜ちゃんなんだ…)


まだ高校1年生、まだ16歳の彼女。

進藤さんからブーケを貰って、無邪気に喜ぶ彼女を微笑ましく思った。


18
歳の時からずっと一ノ瀬と付き合っていた進藤さん。

小さい頃からずっと美鈴さんのことを想い続けている明人君。

父親の進藤先生も、母親の塔矢先生も、ずっとお互いを意識し合ってたのは囲碁界中が知ってることだ。


(明菜ちゃんもそうなのかな…、好きな人には一途なのかな…)


純粋にいいな…、と思った。

この子に好かれたら、こんな俺でも一生愛して貰えるんだろうか。

一生傍にいてくれるんだろうか。


でも、俺と彼女は一回りも違う。

同級生の男子高校生の方が俺よりよっぽどエネルギッシュで未来もある。

けど、俺だってこれでもモテる方だ。

今よりもっといい男になって明菜ちゃんの前に現れたらどうだろう

彼女が一目惚れするくらいいい男になれば、俺のことを想い続けてくれたりしないんだろうか。


18歳になったら絶対紹介してくれよな!」

そう一ノ瀬にお願いする。


彼女が18歳になるまであと2年。

今より仕事も自分磨きも頑張って、絶対に振り向かせてみせる。


年齢の差くらい絶対に越えてみせる――

 

 

 

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