●TIME LIMIT〜恋人編〜 2●




全ての始まりはあの日から――



「そういえば進藤君の誕生日っていつなの?」

「えーと…9月20日です」

「あら!もうすぐじゃない。何かお祝いしてあげよっか?」

「いいです…悪いし」

「こういうのは遠慮なんかするものじゃないのよ〜?そうだ!手作りのケーキ焼いてあげるわね!」

「ありがとうございます…」

進藤の誕生日を聞き出した市河さんが、ご機嫌にカウンターに帰っていった。


「…20日が誕生日だったんだね。僕からも何か…」

「いいよ別に…」

「……」

またしても冷たく拒否されて…思わず僕は俯いてしまった…―



今年の夏の始め――僕は進藤に告白された。

それを断って以来…ずっとこんな気まずい状態が続いてる。

進藤の方に気力がなくなってしまったというか……それまでは対局する度にしていた口ケンカもサッパリなくなった。

果たしてそれがいいことなのか悪いことなのか…。

いや、悪いに決まってる。

だってそんな気の抜けた進藤と対局してもちっとも楽しくないからだ。

打ち甲斐がない。


でも…それじゃあ何か?

あの告白は受けた方が良かったとでも?

僕に全然その気がないのに?

碁の為に彼と付き合えと?

そんなの…冗談じゃない!


……でも


…今の状態はもっと嫌だ…




「進藤…いい加減機嫌を直してくれないか?」

「別に悪くなんかねぇけど…?」

「嘘だ。だって昔のキミと今のキミは全然違う」

「当たり前じゃん。もうすぐ16になるし…んないつまでもガキのようなケンカばっかやってられねぇよ」

「……そう」


確かに…キミはこの1年でずいぶん変わったよね…。

僕と頻繁に打ち出して…北斗杯を経験して…環境が変わる度にどんどん内面が変化してる―。


「…やっぱり何かお祝いしてあげるよ。欲しいものとかある?」

「別にいい…」

「いや、駄目だ。お祝いさせてくれ」

「いいって!」

「どうしてそんなに遠慮するんだ?!」

「オマエ!オレのこと馬鹿にしてんのか?!」

「は…?」

進藤がバンッと机を叩いて立ち上がった―。


「『欲しいものとかある?』だって…?ナメてんのかてめぇ…。オレの気持ち知ってるくせに……オレが欲しいものなんか一つしかねぇよ…―」







『お前だ』







そう言われた瞬間…僕は固まってしまった…―。


「僕…?」

「ああ」

「それって…彼女になってほしいってこと?」

「そうだな」

「キミ…まだ僕のことが好きなのか?」

「オレだってさっさとこんな気持ち消えてほしいぜ!だけど…っ―」

進藤が苦しそうに額に手を当てて肘をついた。


僕に対するキミの気持ちがここまで深いなんて…知らなかった…。

出来れば…応えてあげたい…。

だけどそんな同情まがいのことをされても…キミは嬉しくないよね…?

辛くなるだけ…だよね…?


それに…そういうのをプレゼントにするのってちょっと違うと思う。

僕はモノじゃない。


でも…同じ類いのものでもその日限定とかなら…誕生日プレゼントらしくないか?



「僕はキミの彼女にはなれない…」

「んなこと…分かってる」

「でも…誕生日の1日だけでよければ別に…」

「…は?」

「いや、その…恋人ごっこじゃないけど…1日ぐらいならキミの気持ちに応えてもいいかな…なんて」

「……」

「ご、ごめん。キミをフっておいて何めちゃくちゃなこと…」

進藤の方に視線を向けると、茫然とこっちを見つめていた。


やっぱり…嫌かな?

そんな期間限定みたいなこと…。

でも…今の僕にはそれしか思い浮かばないんだ…―


「…塔矢」

「え?」

「それって…1日丸々オレと付き合ってくれるってこと…?」

「うん…」

「碁無しでもいい?」

「そりゃあ…もちろん。キミが望むデートスタイルで構わないよ」

「…朝まででも?」

「朝?うん…キミがそうしたいなら」

コクンと頷くと、進藤は少し顔を赤めて…久々に僕に笑顔を向けてくれた―。


「すげぇ嬉しい…」

「そんなに喜んでもらえると…僕も嬉しいよ」





あれから4年。


今年もまた彼の恋人になる日がやってくる――















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