●THORN PRINCESS 4●


「すみません!もっと急いで!」

「お客さん、これ以上はちょっと…」


塔矢がタクシーで逃走した後、オレもすぐに拾って追いかけたけど――結局は見失ってしまった。

これほど信号を憎んだのは初めてだ。


……いや

憎むべき相手はオレ自身なのか…?

塔矢はオレのせいだってはっきり言った。

オレ…アイツに何かしたっけ…?

思い出せない時点でもう最低だな…――





「…ここでいいです」

見失った後にオレが向かった先は……もちろん塔矢の家。

塔矢先生と明子さんは外国だから、今は塔矢が一人で住んでるこの家。

電気が点いてないから、まだ帰って来てないんだな…。

今夜…帰ってくるかな?

たぶん…帰ってこないだろうな。

アイツはセックスを精神安定剤だって言ってた。

きっと今頃…また別の男と――


「………っ―」


その様子を想像するだけで胸が痛む…。

安定剤が欲しいのはこっちだぜ。

オマエが他の奴に抱かれる度に、オレは酷い嫉妬にかられる。


オレが善人だって?

冗談。

口ではまともな理屈並べて説教してるけど……心の中ではめちゃくちゃなこと考えてんだぜ?

犯罪もどきのことだって考える。

オマエを抱いた男全員を殺してやりたい。

オマエがもう二度と他の男と出来ないよう、監禁してずっと見張っていたい。

んでもって、監禁には付き物の性的暴行だってしまくりたい。

避妊なんてしてやるもんか。

薬だって飲ませるもんか。

中絶だってさせるもんか。

死ぬまで一生オレの子供でも産んでろよ――



……なんてな……

















「……進藤」

「………」


――結局

塔矢が帰ってきたのは翌朝の8時半。

もう腸が煮えくり返りそうだ。


「…遅かったじゃん」

「キミ…まさか一晩中ここにいたのか?」

「オマエはどこにいたんだよ?」

「…渋谷のホテル」

「誰と?」

「名前なんか知るか。ナンパして来た男とだよ」

「………」


オレの横を素通りして家に入ろうとした塔矢の腕を掴んだ。


「冷たっ…!キミの手冷えきってるじゃないか!」

「オマエが帰ってこねぇからじゃん。責任取れよ」

「責任って…」

「温めてよ。肌で」

「………」

突然の誘いに塔矢が目を見開いた。


オレの方から言うのがそんなに意外?

そうだろな。

今までは会う度に真面目に説教してたもんな。

でもオレは聖人でもなければ善人でもない。

オレだってただのヤりたい盛りの男だ。


「オマエ昨日…童貞捨てんの手伝ってくれるって言ったじゃん」

「…今はやめた方がいい」

「何で?」

「その…、昨夜の男がやけに中出ししてきて…」

「そいつの精液で中がベタベタだって?」

「気持ち悪いんだ。早く洗い流したい…」

「んじゃオレの精液で洗い流してやるよ」

「は?え…ちょっと…進藤?!」


塔矢の手から鍵を奪って、乱暴に玄関をこじあけた。

腕を掴んだまま一直線にコイツの部屋に向かう―。



「布団出すぜ?」

勝手に押入れを漁り出したオレを塔矢は呆然と見つめてる。


「…本気か?」

「ああ」

「でも本当に、衛生的にもやめておいた方が…」

「んなの、どうだっていい」

もう何だっていい。

他の奴のが残ってるなら、上から塗りつぶせばいい。


「来いよ、塔矢」

「…初めてのくせに威張るな」

「ああ、そうだよ。初めてだよ。だからすっげー緊張してる」

「……」

「でも同時にめちゃくちゃ楽しみ。大好きなオマエが初めての相手になってくれるんだからな」

「僕のどこが…好きだっていうんだ」

少し顔を赤めた塔矢の頬にキスをした―。


「…全部だよ」


「………」


ますます顔を赤めてくる塔矢。


オマエ今まで愛のないセックスしかしたことないんだろ?

じゃあオレが今からたっぷりと愛を注いでやるよ。


覚悟しろよな――
















NEXT