●THORN PRINCESS 3●


二十歳になっても今だに童貞の進藤。

見た目だけだと、いかにも15、6歳やそこらで経験してそうなのにね。

僕を見てると女とする気にならないだって?

何それ。

僕のせい?


それじゃあ僕がちゃんと責任を取ってあげる――









「進藤、お待たせ」

「オレもさっき終わったとこ…」


約束通り待ち合わせのロビーに行くと、進藤は腕組みをして壁に寄り掛かりながら待っていてくれた。

僕の姿を見た途端、顔を少し赤めている―。


「じゃあ僕の家でしようか」

「しようか…って、すげぇ直球だなオマエ…」

「嫌?」

「………別に」


今日の進藤はとても素直で、思わずクスッと笑ってしまう。

堅い進藤も所詮はただの男だったってことかな。

でも初めてだから少し緊張してる?

口数がいつもより少ないね。

今日はもうお得意の説教はしないのか?

ま、今からキミも僕と関係を持つんだから、そんな矛盾になること出来ないよね――





「棋聖リーグ惜しかったな。あと一勝だったのに…」

「進藤…――」

駅へ向かう坂道で、碁の話をしようとした彼の口をキスで塞いだ―。

驚きで目を見開きながらも、僕が何度か啄んでるうちに……徐々に目を瞑って…唇で返してくれる―。


「…ん…っ、ん…――」


初めてのキミとのキス…。

キミはキスも初めてなのかな?

でも…そんなに下手じゃないね。

さすが進藤。

経験は乏しいけど、こっちの方も才能は人一倍あるみたいだ――

それじゃあ…セックスも期待出来る…?



「―…は…ぁ」

「…塔…矢―」

口を離した後、進藤が僕をキツく抱き締めてきた―。

髪に顔を埋めて…髪の上から何度も頭にキスしてくる―。

優しく触れてくる―。


「…キミはやっぱり普通の恋愛向きだね」

「え…?」

溜め息を吐いて僕が口にした言葉に、進藤が訝しげに頭を傾けた。


「…離してくれ。一夜限りの相手にそんなサービスしなくていい」

「一夜…限り?」

「うん。僕は同じ相手とは二度と寝ない。キミとも今夜が最初で最後だ」

「………」


眉を寄せて呆然と僕を見つめてくる。

そんなに驚くことじゃないだろう?

恋愛感情がない相手と何度もする方がおかしい。

それじゃあただのセフレだ。

僕はそんな鬱陶しいものはいらない――



「オレ…は……嫌だ」

「……」

「一夜限りなんて嫌だよ…オレ」

「じゃあやめておく?僕は構わないよ。今夜の相手は適当に探すから」

「塔矢っ…!!」

進藤が更にキツく抱き締めてきた―。


「もうやめてくれ…。頼むから…」

「離して」

「絶対に離さねぇ…」

腕に力を入れて押し離そうとしたけれど、それを阻止するかのようにぎゅっと限界まで引き寄せられた―。


「オマエがやめるって言うまで…絶対に離さねぇからな」

「こんなことをしてもやめないよ、僕は。セックスは精神安定剤みたいなものなんだ…。することで気持ちを落ちつかせれて…まともな碁が打てる」

「別に同じ相手でもいいじゃん」

「嫌だよ…気持ち悪い」

「オレでも?相手がオレでも気持ち悪い?」

「ああ」

「……」

はっきりと肯定すると、進藤はショックを受けたように固まってしまった。

体の力が弱まったので、その隙に彼の腕の中から逃れる―。



「…塔矢、オレは……オマエが好きなんだ」

「…知ってるよ」

驚いたように目を見開いて顔を上げてきた。

「オマエ…知ってたんだ…?」

「ああ」

「…そっか」


確証はなかったけどね。

キミが僕を抱いた男たちに嫉妬してた時、なんとなくそんな気がしたから…。


「好きな人には幸せになって欲しいって気持ち…オマエに分かる?」

「………」

「例えオマエが手に入らなくても、オマエが幸せならオレはそれでいいんだ。…でも、今のオマエを見てると――」

「勝手だな、キミは」

「…え?」

「まるで自分は関係ないみたいな口振り。キミのそんな善人ぶってるところが大嫌いだ」

「……」

「僕に幸せになって欲しい?今の僕が心配?笑わせるな!僕がこうなったのも全部キミのせいなのに!」

進藤の体を力任せに突き飛ばして、僕は彼の元から走り出した―。


「塔矢っ!!」

当然のように追って来る彼。


大通りに出て、すぐにタクシーに乗り込み、ただ彼から逃げるために都心を駆け巡った。




僕がいつからこんな生活を初めたのか――キミは知ってる?


僕らがいつからプライベートで打たなくなったのか――キミは覚えてる?


進藤…。

キミが僕より先にタイトルを奪取したあの日。


あの日から全ての歯車が狂い出したんだ――















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