●THORN PRINCESS 28●
その夜――僕は夢を見た。
そこは真っ白な…何もない世界。
誰もいない…。
進藤もいない…。
一人ぼっちの世界だ…。
「……あれ?」
お腹が……膨らんでる。
無くなったはずの膨らみがある…。
「――……っ…」
その膨らみが突然下に下に下がって……僕の中から飛び出した。
出てきたのは……小さな丸い光…。
現実の世界で産んであげられなかった…僕と進藤の子供だ――
『…ママ、泣かないで』
「ごめん…ごめんね…産んであげられなくて…」
『またすぐに会えるよ』
「すぐに…?」
『うん。ママが心から私を欲しいって思った時に…また来るね』
「………」
『だからお願い…』
「…え?」
『私を…碁を辞める理由にしないで…』
「………」
『パパとも…別れないでね』
「…え…?」
『パパとママがいなきゃ…私は産まれないんだから』
「そうだね…」
クスッと笑ってみせると…その光は段々と弱まっていった。
『またね』
「…うん」
最後は一気にパッと光が消えて―――僕も夢の世界から…帰ってきた――
「……進…藤…?」
「塔矢…」
目覚めると…すぐ前に進藤の顔があった。
握り締めていた僕の右手を…震える手で更に強く握ってくる――
「塔矢…ごめんな…。オレ…」
「……ううん」
少し微笑んで顔を横に振ると――進藤はまたしても涙を溢れさせてきた。
「…僕たち…まだ子供を作るには早過ぎたんだよ…」
「塔…矢…」
「先にしなくちゃいけないことが…山程あったんだ」
「え…?」
「妊娠だとか…出産だとか…子育てだとか……僕はそれを理由に大切なものを切り捨てようとした…」
「………」
「お腹の子が教えてくれたんだ…。そんなの……僕じゃないって…」
「塔矢…」
「夢の中で僕らの子供に会ったよ」
「え…?」
「また来るね…って。僕が心から子供を欲しいと思った時に…また来るって」
「………」
「だからキミと別れるなって…言われちゃった」
クスッと笑うと―――進藤が僕の体を抱き締めてきた―。
「…オレ…別れたくない…。子供がいなくたって…オマエといたい…」
「ありがとう…。子供の為に結婚…ていう考えが間違ってたのかもしれないね。子供がいてもいなくても…生涯寄り添える相手と…自分の為に結婚はするものだったんだ」
「オレはオマエと一生側にいたい……夫婦として」
「うん…僕もだよ。だから……もう一度最初からやり直そうか」
「最初から…?」
「うん…」
進藤の腕を解いて…僕は彼に向ける目付きを変えた――
夫に向ける表情ではなく――ライバルに向けるそれに――
「進藤………打とうか」
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