●THORN PRINCESS 27●
――塔矢に…もう合わす顔がない…――
「……ごめん……塔矢…」
自分の寝言でハッと起きると――ベッドの上だった。
でも…オレのベッドじゃない。
病院のベッド…。
さっき起きたことが夢じゃないってことを再認識させられて……また涙が滲んでくる…。
ごめん…塔矢。
オレ…子供よりオマエを取っちまった…。
子供を…助けられなかった…。
ごめん…本当にごめん…。
「…進藤さん?」
病室の端にいる誰かに声をかけられた。
暗くて顔が見えない……
「…誰?」
「あ、起きてるのね。電気点けるわね」
パッと一気に部屋が明るくなって、真っ白の世界から白衣を着た人がベッドに近付いてくる。
顔を何とか判別すると……カウンセラーの先生だった――
「気分はどう?」
「………」
「塔矢さん…気がついたみたいよ」
無意識に体がビクッと反応する―。
「…側にいてあげなくていいの?」
「………」
「そんなに自分を責めないで。あなたの判断は正しかったわ。赤ちゃんの方は…たぶんどっちみち助からなかっただろう…って担当医が…」
「………」
「もし母体を優先してなかったら…きっと塔矢さんまでも亡くなってたわ」
「…でも…死産のきっかけを作ったのも…オレです」
「………」
「全部…オレが悪いんです…。塔矢をあんな体にしたのも…子供が死んだのも全部…何もかも…」
「…そう」
何でこんなことになっちまったんだろう…。
オレ…妊娠出産を甘く見過ぎてた…。
命の大切さは嫌ってほど分かってたはずなのに……
その命を生み出す行為が危険じゃないなんてこと…あるはずがなかったのに…――
「…塔矢さんに会ってあげて?」
「会え…ません…」
「進藤さん、あなた彼女の夫でしょう?」
「…だけど……」
どの面さげて会いに行けばいいんだよ……
「私は女だからどうしても女性の味方をしてしまうけど…、でも…それでも今の状況で一番辛いのは女なの…塔矢さんなのよ…。夫のあなたが支えてあげなくてどうするの?」
「………」
「あなた…子供の為だけに塔矢さんと結婚したわけじゃないでしょう?」
「え…?」
「子供が出来たから結婚、死んだから即離婚だなんてふざけたこと…考えてないでしょうね?」
「………」
そんなの…考えてるわけがない…。
……でも
塔矢は…そう思ってるかも……
子供の為に…オレと結婚してくれたのかも……
だから…塔矢が望むなら……それでもいいよ……
オレはそれだけのことをしちまったんだから…――
「…彼女はあなたのせいだなんて…一言も言わなかったわよ?」
え…?
「言わなかったし…きっと思ってさえもいないわ」
「………」
「彼女が目覚めた時の第一声…『進藤は?』だったそうよ…」
「え……」
「塔矢さんがあなたに会いたがってるの…。行ってあげてくれるわよね…?」
「でも…どんな顔して…」
「いつものあなたでいいのよ」
「………」
「この病院に初めて来てくれた時のように…ただ塔矢さんが心配でカウンセラーを頼んだような…いつものあなたでいいの」
「………」
先生に塔矢の病室を聞いて…恐る恐るそこに向かった。
一歩近付くにつれて…どんどん心臓の音が高鳴ってくるのが分かる。
不安と…希望と…恐怖と…嬉しさと……オレの中でたくさんの想いが渦巻いてる。
塔矢に…何て言われるんだろう……
どんな顔されるんだろ……
コンコン
軽くノックして真っ暗な病室に足を踏み入れた―。
「……塔矢?」
ベッドの上には…塔矢の横たわった姿が――
「寝てるのか…?」
規則正しく呼吸をして…寝息をたてて……綺麗に眠ってる。
彼女の右手をそっと取って…握り締めた――
「…塔矢…ごめんな…?」
もう膨らみのないお腹を目にして……またしても涙が溢れてきた……
「ごめんな…。オレ…どうしても…オマエを諦めきれなかった…」
……子供よりも……
「塔矢…塔…矢…」
握り締めた右手に想いをぶつけるように…何度も何度もキスをした。
彼女の瞑った目の横から――涙が溢れてきてる。
どんな夢見てるんだ…?
オレも出てる…?
それとも…――
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