●THORN PRINCESS 26●




――助からない――



お腹が痛くなった時……何故かそんな予感がした。

僕か…この子か……どちらかが死ぬって…。

きっと進藤は病院で決断を迫られるだろう。

だから先に言っておいた。


『この子をよろしく』

って――





なのに…



なのにどうして……




……僕は生きてるんだろう……



















「アキラさん!」


目覚めたら病院のベッドの上――


母が…

その隣りには…父が…

緒方さんが…

芦原さん…

市河さ…



「……進藤は…?」


「………」

僕の第一声に皆が顔を暗くする。


「お母さん…進藤は…?」

「え…ええ、もうすぐ…来てくれるわ。今は……」

母の声が段々小さくなっていく…。


自然とお腹に手が伸びる…――


「………?」


あるはずの感触がない。

膨らみがない。


「お母さん……赤ちゃんは…?」

「………」

更に暗くなる皆の表情。


分かってる。

どうなったかなんて聞かなくても分かる。


だからどうして?!

どうして僕が生きてるんだ?!


言ったのに…

ちゃんと…言ったのに……



「ごめんなさいね…。先生に…どちらの命を優先するか聞かれて…」

「出て…って…」

「アキラさん…」

「出て行ってっ!!皆出て行ってっ!!」

「………分かったわ」


どうして?!

どうして僕なんかを助けたんだ?!

僕なんか…

僕なんか……生きてても意味がないのに…――










「…塔矢さん?」

「…出て…行って…」

「塔矢さん、私よ…」


泣き腫らした顔を上げると……カウンセラーの先生がいた。


「先生…」

「残念…だったわね」

「………」

「女の子だったそうよ…」

「そう…ですか…」

「今は…取りあえず慰安室に…。進藤さんもその近くの病室にいるわ…」

「……え?」

「すごい取り乱しようでね…、落ち着かせる為に鎮静剤を打ったの…。そろそろ起きる頃だと思うけど…」

「………」


先生が僕のお腹をじっと見つめてくる―。


「一昨日の定期検診だとどこも異常はなかったのに…」

「………」

突然の異変に先生が頭を傾げた。


原因は……やっぱりあのセックスなのかな…。


奥まで入れ過ぎた…?

回数が多過ぎた…?

体位の問題…?


……ううん。

どれも違う気がする…。


進藤は僕の体をいたわりながら…進めてくれていた。

傷つけないように…って。

優しく……すごく優しく……。


……愛に溢れたセックスだった……


あんなに心が満たされたのは初めてだ…。

そのセックスが原因だなんて…ありえない……


でも……それじゃあ一体何が原因だったんだ…?





「…担当した先生が言ってたわ」

「え…?」

「子供の方は…生命力がみられなかった…って。まるで産まれること…生きることを拒否してるみたいだった…ってね」

「………」

「塔矢さんの一番近くにいたから…きっとあなたの本当の気持ちを分かってたんじゃないかしら…」


僕の…本当の気持ち…?


「…僕は…確かに産みたくないって…言いました。でも今は…」

「そうじゃないの。それよりもっと…もっともっと奥の気持ちよ。もしかしたら塔矢さん自身もまだ気付いてないのかも…」

「………」

「でも子供にはきっと分かってたのね…。だから…自ら命を落とした。そう考えると納得がいくわ…」

「…自ら…?」

「そうよ。もちろん医者の立場としては…根拠のない非医学的な話で…理解は無理だけど」

「………」

「私が思うには…まだ時期じゃなかったのね」

「……え?」

「まだ産まれる時期じゃないって子供にはちゃんと分かってたんだと思うの。私を産むより先に…子育てより先に…他にすることがあるでしょう?って――」




先に……すること……?














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