●THORN PRINCESS 2●
…いつから塔矢はあんな女になっちまったんだろう…
見た目はすげぇ真面目そうなアイツ。
実際、碁に対してはすげぇ真面目だ。
だけど彼女の男性遍歴を知ったら……きっと塔矢先生なんかまた倒れちまうだろう。
両親が外国に入り浸りなのをいいことに、毎晩男を取っかえひっかえ…。
家に連れ込み放題…。
外泊し放題…。
そりゃあアイツ美人だもん。
あんな奴に誘われたら男なんかイチコロだ。
オレだって……そうだ。
『僕としたいのか?』
と塔矢に問われ、心の中では思いっきり首を縦に振った。
したい。
したいよ。
だけど……したくない。
オマエと関係を持った大勢の男の中の一人に…なりたくない。
オレにとってオマエは特別なんだ。
だからオマエにとっても特別な存在に…オレはなりたい――
「何飲んでんだよ…」
「分かってるくせに聞くな」
「まさか…」
「そのまさか、だよ」
塔矢が手合いの休憩時間に昼食を取らないことは有名。
今日は珍しく何かを口にしようとしてると思ったら……これだ。
一気に血の気が引いた気がした。
「やめろよ!んなもん飲むな!」
すぐに取り上げてゴミ箱に投げつけた―。
「何するんだ!高いのに!」
「うるせぇっ!」
オレらの騒ぎを皆が見出したので、塔矢の手を引っ張って急いで休憩室から連れ出した。
誰もいない対局室に入って乱暴に壁に押しつける―。
「頼むからっ…、もっと自分の体を大事にしてくれ!」
「してる」
「してないだろ!さっきの薬だって副作用あるんだろ?!どうしてだよ!どうしてあんなもの飲んでまで…男としたいんだよ」
「ウルサいなぁ…。放っといてくれ」
「放っとけるか!バカ!」
「……はぁ」
塔矢が溜め息を吐いて、呆れ顔でオレをジッと見てくる。
会う度に説教するオレ。
鬱陶しく思われてるのは知ってる。
だけどオレはやめないからな。
黙って見て見ぬふりをすることなんてオレには出来ない――
「塔矢オマエ…あんなもの飲みまくってると、そのうち体がボロボロになって…子供が出来ない体になっちまうぞ…?」
「そうなったらもう飲まなくていいね」
「塔矢ぁ…」
「キミが泣くことないだろ」
「だって…」
何を言っても、何度言っても、聞く耳を持ってくれない彼女。
男と寝ることをやめてくれない彼女。
どんどん薬漬けになっていく彼女。
どうすればいい…?
どうすれば塔矢を更正させれるんだ…?
「…もう休憩時間終わりだね。戻ろう」
「塔矢…」
「あーあ…キミが捨てちゃったから…またもらってこないと…」
「だから飲むなって…」
「飲まないと妊娠してしまう」
「妊娠するようなことしなけりゃいいじゃん…」
「僕に禁欲しろって?」
「そうして欲しいけど…、無理ならせめて相手を一人に絞れってくれ…」
「はは」
鼻で笑ってくる塔矢。
『誰に?』
って顔。
別にオレを選んでくれなんて…高望みはしてない。
でも、オマエの為にも…今のめちゃくちゃな性生活だけはどうにかして欲しい――
「進藤ってまだ童貞だろ?」
対局室に戻る途中で、塔矢がサラッと聞いてきた。
「オマエ見てると…女とする気にならねぇんだよ…」
「二十歳の男がその考えなのは異常だな」
「うるせぇ…」
オレのことはいいんだよ。
今はそれどころじゃないんだ。
今は――
「……塔矢?なに…」
「何か感じる?」
「何か…って…」
いきなりオレの手を掴んで自分の胸に押し当ててきた―。
初めての柔らかい感触に徐々に顔の温度が上がってくるのが分かる―。
「揉んでもいいよ…?」
「か…っ、からかうなっ!」
胸から強引に手を払った―。
「ここ棋院だぞ?!何考えてんだよ!オマエ!」
「別に?キミが童貞なのは僕のせいみたいだから、責任取って捨てるの手伝ってあげようかな〜って思って」
「なっ…」
「全く、キミぐらいだよ。僕の誘いを断る男は…」
「………」
オレだって…断りたくねぇよ…。
本当はヤれるもんなら、ヤってヤってヤりまくりたい。
だけどそれじゃあ……他のその他大勢の男と一緒になっちまう…。
オレはそんなの嫌だ…―
「残念だな…。キミとだったら…、今までで一番素敵な夜を過ごせそうな気がしたのに…」
「………」
「本当にやめておく?こんなチャンスもうないかもよ?」
オレの腕を組んで、意地悪く再び胸を押し当ててくる。
その柔らかさをもっと知りたいと思うオレは……悲しいけど正常な男だよな…。
…くそっ!
「オレを…他の奴と一緒にすんなよな…」
「はは。キミほど真面目な奴は他にいないよ。じゃ、対局が終わったらロビーで待ってて」
「………」
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