●THORN PRINCESS 18●
――進藤にプロポーズされてしまった――
彼に抱かれている肩が…キスで触れた頬が…そして囁かれた耳が一気にすごく熱くなっていってるのが分かる。
真っ赤な顔をして固まってしまった僕の顔を、進藤が不穏げに横から覗いてきた―。
「塔矢…?」
「………」
結婚…。
進藤と結婚…?
『ありえない』
そう思いながらも、僕は彼の子供を産むのだから……そうするのが一番自然なのかも……とも思ってしまう。
だけど意地っ張りな口が勝手にそれを拒否する――
「…キミとは結婚しないって言っただろ?」
「うん…。でも…」
「でも、じゃない!しないったらしないんだ!」
「嫌だ!オレは絶対にするからな!」
進藤が僕の左手を引っ張って、どこからか取り出した指輪を薬指に嵌めようとしてきた。
指をグーにしてそれに抵抗する。
「そんなものいらない!」
「ウルサい!いいから受け取れって!」
「質屋に売ってやるからな!」
「売れるもんなら売ってみろよっ!」
「………」
でも結局は女の僕の力負け。
広げられた指に無理やり婚約指輪を嵌められてしまった。
進藤の顔を睨みながらも、内心は少し嬉しい自分が右手でその指輪をなぞる―。
「塔矢お願い。結婚しよう……子供の為にも」
「どうしようかな…」
「オレ結構一人暮らし歴長いから家事得意だぜ?料理だって人並み以上に上手いし…」
「ふーん…」
「掃除も洗濯も全部するから!アッシーに使いまくってくれて構わないし…、オレの賞金とか給料も好きに使って豪遊してくれていいし…、…子育てだって頑張るから…」
「………」
「オレと寝たくないなら…別にセックス無しでもいいし…」
「他で遊んでいいんだ?」
「……オマエがしたいなら…」
「馬鹿みたい。妻の浮気を公認する夫がどこにいるんだ」
「でも…夫になれないよりかはマシだし…」
「そこまでして僕と結婚したいのか?」
「うん…」
真剣に僕を見つめてくる彼の顔。
馬鹿みたい。
というか馬鹿だろ。
そんなに下手に出てどうするんだ。
夫婦は同等、男女は平等だろう?
夫だから、妻だから、男だから、女だから。
そういう風に差別をする奴が一番大嫌い。
だから家事だって分担して……子育ても二人で一緒にするのが一番なんだ。
絶対に言ってやらないけどね――
「…いいよ」
「え…?」
「キミがそこまでしたいのなら…してもいいよ、結婚」
進藤の目が大きく見開いた―。
「本当…に?」
「うん。キミが言った通りの使用人兼ベビーシッター兼浮気まで黙認してくれる寛大な夫になってくれるのなら…してもいいかな」
「なるよ!なる!…頑張る」
嬉しさを表現すべく、進藤がぎゅっと僕を抱き締めてきた―。
その抱かれ心地は最高。
すごく胸がドキドキして…気持ちいい。
浮気…ね。
僕がするかな?
他の男より、今は早く…もう一度キミに抱かれたい――
「塔矢…絶対だからな?今更冗談でした、なんてナシだからな?」
「うん…」
「明日になって気が変わったなんて言うなよ?」
「僕が信じられない?」
「そういうわけじゃないけど…、じゃあ…これに記入してもらってもいい?」
「え?」
進藤がまたしてもどこからか取り出してきた紙。
四つ折りにされたその用紙を広げてみると…――
「婚姻届…?」
「うん」
「用意がいいな。しかもキミの欄は既に書いてるし…」
苦笑する僕に、進藤は真顔でボールペンを差し出してきた。
「判も…今持ってるよな?」
「うん」
「行き先…変更してもいい?」
「せっかちだな、キミは」
「だって…」
僕の気が変わるのが怖い?
いいよ。
安心させてあげる。
行き先は変更。
「すみません。先に区役所に寄ってもらえます?」
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