●THORN PRINCESS 16●
きっと進藤を受け入れられれば…
自分の気持ちに正直になれたら…
僕は楽になれるのだと思う。
だけど今まで散々彼に冷たい態度をとってきた僕。
いきなり馴れ合うなんておかしな話だし……正直言って恥ずかしい。
だから相変わらず素っ気ない態度を取ってしまう。
それでも懲りずに、呆れずに、ほぼ毎日僕の元に通ってくれる彼。
「塔矢…―」
帰り際には必ずキスを求めてきて…優しく何度も啄まれる。
「―…ん…っ、…ん…」
手は僕を引き寄せて…別れを惜しむようにぎゅっと抱き締めて来る―。
「―……はぁ」
気持ち悪いぐらいに甘いキスを終えた後、彼は僕の目をじっと見て…次に来る日を伝えてきた。
「…明日から本因坊戦なんだ」
「ふーん。ま、せいぜいタイトル取られないよう頑張って」
「うん…。次来るの来週になっちまうんだけど…」
「そう」
「……」
明らかに『来なくていいよ』という顔をした僕に、進藤は寂しそうに眉を傾けてきた。
「…じゃあ帰るな」
「うん。わざわざありがとう」
「あー…あのさ、最後に………撫でてもいい?」
「……いいけど」
僕が承諾すると、進藤は6ヶ月目に入った僕のお腹を優しく撫でてきた。
「今日で23週目に入ったんだよな?」
「…そうだね」
「へへ」
「嬉しそうだな」
「うん。今日からはオマエの『おろす』っていう脅し文句は聞かなくてすむし」
「……」
23。
それは法律的に、もうおろすことが許されない数字。
まるでこの時を待ちわびたように、進藤は嬉しそうに何度も擦ってきた。
「な、今度オレも一緒に病院行っていい?」
「は?」
「どのくらい大きくなってんのか一度見てみたいんだ」
「……」
「駄目…か?」
「勝手にすれば?」
「やった!ありがと、塔矢」
もう一度軽くキスをしてきて、進藤はご機嫌に帰って行った。
次来るのは来週。
進藤の前だとつい『来るな』と意地をはってしまうけど、本当はカレンダーで日付を確認してしまうぐらい楽しみにしてる自分が情けない。
こんな僕をキミはどう思う?
「ふふ。アキラさん、最近嬉しそうね」
「そうかな…」
「ええ、顔がすごく穏やかよ。進藤さんのおかげかしら?」
「………」
少し顔を赤めた僕を見て、母が再びふふっと笑った。
母の言う通り、顔が穏やかなのと同じくらい……今の僕は心も穏やかな気がする。
進藤のせい…なんだろうな。
彼が側にいると落ち着くんだ。
「進藤さんも最近アキラさんが優しいって喜んでたわよ。二人とも一時よりすごくいい雰囲気で私も嬉しいわ」
「はは…」
「いっそのこと結婚しちゃったらどうかしら」
「………」
――結婚――
確かに僕にとっても進藤にとっても…産まれてくる子供にとってもそれが一番の選択なのかもしれない。
だけど僕らの間では今でもあの三ヶ条が健在で、相変わらず打たないし…寝ない。
そしてこのままいくと、もちろん結婚なんてものもしない気がする。
事実婚…て言うんだっけ。
籍には入ってないけど、一緒に住んで…もちろん子供も作ってるカップルのこと。
僕らもそれになっちゃうのかな…?
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