●THORN PRINCESS 13●


カウンセラーの先生が教えてくれた塔矢がああなった『理由』。

正直…ショックだった。

確かに……オレのせいみたいだな。


でもオレがオマエをライバルとして見てないわけねぇじゃん!

オマエはオレのライバルだよ!

今までもこれからもずっと!


そりゃあ…『女』としても見てるよ?

だって実際にオマエ女じゃん。

胸だってあるし括れだってあるし…、細いし喜捨だし軽いし小さいし柔らかいし可愛いし…どこをどう見ても男には見えない。

男友達と同じような態度をオマエにはとれないよ…。



明子さんからかかってきた一本の電話。

塔矢がやっぱり産むことにしたって教えてくれた。

あんなに産みたくないって言ってたのにどうしてだろ…。

でも、オレ的にはすごく嬉しい。

嬉しいけど……嬉しくない。

塔矢が『一人で』生み育てる決意をしたからだ。

確率は50%。

もしオレの子供じゃなかった場合、オレに父親を演じてもらうのは残酷だから…って。

確かに…そうかもしれない。

オレはそこまで善人じゃない。

誰が他の男の子供なんか…――


でも……もしオレの子供だったら?

それでもやっぱり一人で育てるつもりなのか?

オレは必要ない?

『父親』というポジションをくれないんだ?



―――あ



そっか…。

何となく塔矢の考えてることが分かった気がする。

どっちの子供でも…ちゃんとオレが傷つくように計算されてる。

オマエが他の奴の子供を産むのもオレにとっては我慢出来ないことだし…

オレの子供だった場合でも…オレから父親の権利を取ることで…――


…オマエ性格悪すぎ…


……でも

そんなオマエにしたのはオレだ……


ごめんな…。

そもそもオレに出会ったことが…オマエの人生を変えちまったんだよな…。


でも、今のオレがあるのはオマエのおかげ。

オマエがいたからオレはプロになれた。

今の強さを手に入れれた。



でもその強さがオマエを苦しめるなら…


オレはオマエの為に捨てれるよ…――












「進藤、最近調子悪いみたいだな」

「うーん…スランプかな。ハハ…」

「大事なタイトル戦まで落としておきながら、よく笑っていられるな」

「………」


そりゃ笑えるさ。

わざとだし。




――2月

オレはこの一ヶ月の手合いを全戦全敗した。

大手合いはもちろん、タイトル戦の予選も本戦もリーグ戦も全て。

去年一年間の勝率が7割を超えていたオレの、いきなりの敗北劇に周りは騒ぎだす。

大騒ぎにならないよう上手いこと半目差ぐらいで負けてたわけだけど、さすがにタイトルホルダーの連敗がこれだけ続けば周りは異様に思い始めてくる。

体調の悪さを装ったりもしたから、3月に入ってからは精神面でストレスが堪ってるんだろうって噂されるようになった。



塔矢が……産休届を出したからだ。



「進藤の連敗ってさ、塔矢のお腹の子が原因って本当?」

「父親って進藤なんだろ?」

「前に休憩室前で派手に塔矢と関係暴露しまくってたもんなー」

「えー、私は色んな男と関係持ちすぎて誰が父親か分からないって聞いたよ?」

「塔矢アキラが軽いって噂本当だったんだ?」

「進藤もその中の一人ってこと?」

「噂じゃ塔矢と親権でもめてるって」


これは偶然オレが耳にした噂だけど……あながちハズレてないことに笑える…。



「でもさ、進藤の連敗って清々しねぇ?」

「したした。生意気なんだよな、20やそこらで二冠なんて」

「本因坊取ったの18だろ?ありえねぇって」

「しかもこの前雑誌にさ、囲碁始めたの12の時とか書いてたんだぜ。プロになったのが14だろ?」

「しかも一発合格。俺ら絶対ナメられてるよなー」

「塔矢も一発合格だけどさ、あの名人から小さい頃から教えこまれてたわけだから…まぁ納得だよな。女だけど」

「あら、何よ。女が強かったら悪いの?」

「そういうわけじゃないけど、女流タイトルがある意味を考えたらさー。お前だって言ってたじゃん。塔矢がいるうちは絶対タイトルなんて取れない!って」

「今がチャンスじゃん!塔矢の奴、今期タイトル全部返上したんだろ?」

「か…簡単に言わないでよね!塔矢以外にも強い人いっぱいいるんだから!」

「何だよ、結局は塔矢がいようがいまいがお前には無理なんじゃん」

「何よ!あんた達だって進藤に勝ったことないくせに!」


少し離れた所で聞き耳をたてていたオレの肩に、誰かが手を乗せてきた。

慌てて振り替えると――


「…緒方さん」

「気にするな。アイツらの言ってることは弱者の戯言だ。負け犬の遠吠えとも言うがな」

「………」

「それより調子はどうだ?」

「…なんとか」

「今からアキラ君に会いに行こうと思ってるんだが…お前も来るか?」

「…遠慮しておきます。どうせ会っても嫌な顔されるだけだし…」


緒方さんは戯言って言うけど…

負け犬の遠吠えって言うけど…

オレはアイツらの言ってることを気にせずにはいられない。

だって…塔矢もオレのことを同じように思ってるんだろ?

そうなんだろ?

なぁ塔矢。


今…清々してくれてる?














NEXT