●THORN PRINCESS 11●


午前中に指導碁を済ませたオレは、帰りに塔矢のカウンセラーをお願いした病院に寄ってみた。


「あら、進藤さん」

「明子さん、こんにちは。塔矢は…」

「今診てもらってるところよ」

明子さんが心配そうな目で診察室を見つめた―。


「私…、アキラさんがこんなことになってるなんて…全然知らなかったわ…。いつ頃からなの…?」

「オレが知ったのは1年半ぐらい前ですけど…、多分それよりもっと前からだと思います」

「そう…。やっぱりもう少し頻繁に帰ってくるべきだったわね。アキラさんを信用しすぎたわ…。よく考えたらまだ二十歳になったばかりですのにね…」

「………」



カチャ


診察室のドアが開いたので、オレも明子さんも慌てて振り返った―。


「お母様ですか?それに…進藤さんですね?どうぞ中に。少しお話ししたいことがありますので」


先生に診察室の更に奥の部屋に連れて行かれると――塔矢がいた。

いつも通り…オレに冷たい視線を向けてくる。



「どうぞおかけになって下さい。お二人にもこちらの検査結果を見ていただきたいのですが…」

「検査?」

「はい。お母様には申し上げにくい話なのですが…、お嬢様はストレスから少々乱交を繰り返してまして…、今日は性感染症の検査等を最初にさせていただきました」

「まぁ…。それで…結果は…?」

明子さんが不安そうに先生に尋ねると、先生は安心して下さいと言わんばかりの表情をオレ達に向けてくれた。

「病気についてはクラミジア、淋病などの感染も一切みられませんでした。……ですが」

「ですが?先生、娘に何か…」

「これはお母様にとって悲しいことなのか喜ばしいことなのか私どもでは判断しかねますが……お嬢様は現在妊娠5週目に入ってます」




え…?




「アキラさん!本当なの?!」

「…らしいね」

「塔矢…、オマエ…薬は…?」

「飲めなかったんだ…。キミが捨ててしまったし…、あの後も連休で病院は休みだったし…、遠征も重なってて…やっと貰いに行けると思ったら母が帰ってきてしまって…」

「じゃあ……父親って…」

「キミか…前の晩の男か…どちらかだね。5週目だから計算も合うし…」

「………」


どちらかだね…ってオマエ…。

そんな大事なこと…――


「進藤さん、どういうことなの?あなた…アキラさんと?」

「すみません…」

「まぁ…そうだったの。じゃあアキラさん、どうするの?産むの?」

「もちろん下ろします」

「あら、どうして?進藤さんの子供かもしれないんでしょう?一緒に育てればいいじゃない」

「進藤の子供なんか産みたくありません!」

「塔矢…」


オレを睨み付けながら言ってきた…その強烈な一言。

一瞬頭が真っ白になった…。

20年生きてきて……こんなにもショックを受けたのは初めてだ…。 

好きな女の子に自分の子供を産みたくないって言われることほど…辛いものはねぇよな…――



「中絶手術の書類はこちらになりますので、必要事項と……あとこちらの同意書に男性側のサインも必要になってきます」


先生から書類を受け取った塔矢は、即座に記入を始めた。

そして――


「はい。同意書のサインはキミがして」

「………」

「キミのせいで妊娠したかもしれないんだから、キミが責任取ってサインするのは当然だよね?」

「…オレがすると思ってんの?」

「ああ」

「…嫌だよオレ。責任は別の方法で取りたい…」

「別の方法って何?まさか僕に産めって言ってるのか?」

「…うん」

「冗談じゃない。誰がキミの子供なんか…」

「塔矢…もう少し真剣に考えろよ。父親が誰であれ…オマエの子供には変わりないんだぜ?」

「キミこそもっとよく状況を把握したらどうだ?確かにキミの子供かもしれない。だけど他の男の子供の可能性だって十分にあるんだぞ?僕がそいつの子供を産んでもキミは平気なんだ?」

「…嫌に決まってんじゃん…。でも…確率は50%なんだろ?自分の子供かもしれねぇのに……サインなんか出来ない」

「あっそ。じゃあもういいよ。これも適当に誰かに頼むから。進藤の役立たず!」

「塔矢…」














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