●SAVING TABOO 9●
「今日はありがとう」
「ん…」
18時になって、僕は帰る準備をそそくさと始めた。
進藤はベッドで裸のまま――ずっと僕を見つめている。
「進藤、その…このことは誰にも――」
「分かってるって…。オレだって家庭があるし…」
「うん…そうだったね」
「お互い忘れようぜ、今日のことは…」
「うん…」
「オマエの産んだ子は旦那の子だよ。そう思い込んどけ」
「…うん」
再び黒のワンピースを着て、お化粧もし直した僕は彼より先に部屋を出ることにした。
一緒にいるところを見られないようにするため。
念のためだ。
「じゃあ…帰るね」
「ん…」
相変わらず僕を虚ろな目でじっと見つめてくる進藤を背に、僕は部屋を出た――
家に帰って、夫が帰って来る前に普段着に着替えて、夕飯も作って、いつもと変わらない様子を作り上げる。
「ただいま」
と20時過ぎに帰って来た夫を笑顔で出迎えて、一緒に夕飯をとる。
そして夜になると抱き合って――形ばかりの子作りをする。
ここ数週間、毎日のように抱き合ってるね。
こんなに頑張ったんだからそろそろ出来るかな、とか、思ってる?
うん、出来るかもね。
きっと出来るよ。
楽しみにしてて―――
――― 一ヶ月後
僕は生理が来ないのを確認して、産婦人科を夫と訪れた。
「おめでとうございます。6週目に入ってますよ」
そう告げられた僕は、先生の前…夫の前でボロボロと涙を流してしまった。
「アキラ、良かったな」
「うん…」
「体、大事にしなきゃな」
「うん――」
この涙は嬉し涙と共に――懺悔の涙でもある。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
どうしても欲しかったの。
自分の為じゃない。
皆の為に…どうしても欲しかったの。
ごめんなさい―――
「アキラさん、おめでとう」
と母。
「良かったな」
と父。
「本当に?!おめでとう!アキラ!」
と芦原さん。
「碁は続けろよ」
と緒方さん。
「これからが大変よ〜」
と市河さん。
そして―――
「進藤君、アキラさんおめでたですって」
碁会所を訪れた進藤に向かっての、市河さんの第一声。
「…ふーん」
「ふーん、って何よ。お祝いしてあげなさいよ」
「はいはい。おめでと、塔矢」
「…ありがとう」
ありがとう―――進藤。
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