●SAVING TABOO 10●





「…ただいま」



塔矢とのことが終わって家に帰ると…前以上の気まずさがあった。


浮気、しちまった。

妻以外の女と…してしまった。


「お帰り〜」

と相変わらず笑顔で出迎えてくれるあかりの顔を直視出来ない。

ごめんな…最低の夫で。


おまけにその晩は何かもう…あかりを抱く気にはなれなかった。

子供達がいるからとか…そういうんじゃなくて、本命を知ってしまったから…かな?

塔矢を忘れたくなかった。

他の奴を抱いたら…アイツの感触を忘れてしまいそうで――


……それでも、ずっとしない訳にはいかない。

性欲だって日が経てば復活する。

仕方ない…か。


そう思ってあかりに手を出すと―――



「あ……ダメ、ヒカル…」

「え?」


予想外に、コイツの方が拒んできた。


「あーごめん。もしかして生理中だった?」

「ううん…その反対」

「は?」

「遅れてるの…二週間も。もしかしたら…と思って」

「……マジ?」


妊娠…したのか?


「明日、病院行ってくる」

「お…おぅ」


嬉しいような…嬉しくないような…複雑な気分。

やっぱりあの中出しがまずかったのか?

てか、オレの精子元気良すぎ。

こりゃ絶対塔矢も妊娠してるな…。









―――と思った数週間後

案の定オレは碁会所で塔矢の妊娠を聞かされる。

やっぱり、な…。



「……予定日は?」

打ってる途中で、何気なく塔矢に聞いてみた。

「来年の6月」

「ふーん…」


ちなみにあかりの予定日は5月だ。

同級生になるのか…とか、もし男と女で…恋愛しちまったらどうしよう…とか。

同性でも、二人ともオレ似で瓜二つだったら…とか、余計なことをつい頭の中でぐるぐる考えてしまう。


「………
ありがとう

「……」


打ちながら、ボソッと回りに聞こえない程度の小さな声で…塔矢がお礼を言ってきた。

返事はしない。

だって忘れる約束だろ?

オマエも…忘れろ――





「……ん…」

「…塔矢?大丈夫か?」

「ん…平気。ちょっと吐きそうになっただけ」


少し顔色がよくない塔矢。

平気だって言うけど、何度も口を押さえる彼女を見ていられなくて――トイレまで付き添った。


「アキラくん…大丈夫かしら」

心配した市河さんが受付からやってきた。

「大丈夫でしょ。単なる悪阻だし、吐けば気分良くなるって」

「そう…ね」


あくまで他人行儀。

深入りはしない。

普通の友達が、普通にしてやるところまでをオレもするだけ。

あくまで友達の域だ。

(オレと塔矢が果たして友達と呼べるのかは微妙だが)



………とか自分に言い聞かせながらも、内心はヒヤヒヤだった。


少し寒そうな塔矢に、上着をかけてやった。


思っちゃいけないのに……塔矢の腹ん中の子は…オレの子なんだって…どうしても思ってしまう。



「本当に大丈夫か?」

「うん…。でも今日はもう帰るよ…」

「………送ってく」


普通の友達は送るよな?

てか、オレは今日車で来たからついでだし!

そうだ、単なるついでだ!


…とか思いながらも助手席のドアを開けてやる。


「…冷たいものでも飲むか?」

とか聞いてしまう。

「うん…お願い」

「じゃ、そこのコンビニ寄るな」


ジュースぐらい普通奢るよな?

ブレーキをいつもよりゆっくり踏んだり……普通するよな?


あー!もう!なにやってんだオレ!



「進藤…優しいね」

「………別に。普通だろ」

「ふふ…」

「………」


塔矢が笑ってくる。

オレ、変?


「きっとこの子も優しい子になるね…」

「……関係ねーし」


そうだ、関係ない。

オマエの子が優しくなろうがキツくなろうが、オレには関係ない。


「あ。そこの角を曲がった所だから」

「了解」


塔矢の家に着いて、また…ドアを開けてやっちまった。


「明かりが点いてるな。旦那、帰ってきてるんだ?」

「もう夜の9時だからね」

「ふーん…。じゃ、オレ帰るな」

「お茶でも飲んで行く?」

「冗談」


誰がオマエと旦那の愛の巣なんか入るかっての――

















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