●SAVING TABOO 27●
あれから三ヶ月後―――夫が亡くなった
最後の三ヶ月間は偽りのない幸せで、本当に楽しかった。
もちろん父親の死に、洋人の落ち込みようは半端じゃなかったけど。
「代わりにオレをパパだと思っていいからな」
進藤のこの一言が洋人を救った気がする。
そしてお腹の中の新しい命。
もうすぐ生まれてくる弟か妹が楽しみで仕方ないみたい。
「離婚…しないでね。あかりさんと…」
「なんで?」
「僕らはキミがいなくても大丈夫。でもあかりさんや彼女の子供達にはキミは必要だから」
「でもオレにはオマエは必要だぜ?」
「…ありがとう」
あの22の春のこと…キミはまだ覚えてる?
――もしキミが止めてくれていたら、僕は結婚しなかったと思う――
何度もチャンスはあげてたよね?
それでも口にしなかったのはキミのプライドかな?
でも僕はそんなプライドより、僕を取ってほしかった。
なぜだか分かる?
キミが……好きだったから…――
「あかりにも…全部話していい?あいつにも選択肢をやりたいし…」
「…いいよ」
後日――あかりさんが僕の家にやってきた。
泣き腫らした目。
信じてたのに…ていう顔。
「私…ヒカルと離婚する」
「え…?」
「なんかもう……疲れた。ヒカルはいつまで経っても塔矢さん塔矢さんだし…」
彼女の目からまた涙が溢れてきた――
「最近一緒にいるのが辛いの…。結局私は塔矢さんの代わりになれなかったわけだし、無理してまでこれ以上一緒にいてほしくない」
「あかりさん…」
「塔矢さんも、いい加減自分に正直になったら?ずるいよ……ヒカルが可哀相…」
涙を拭った彼女は何だか吹っ切れた顔。
「よく考えたら私まだ30代だし、そろそろ専業主婦も飽きたし、外でもっといい男でも見つけよっかな」
「いっぱいいると思うよ」
「だよねー!よーし、今度は私だけを好きになってくれる人を探そっと!」
意外に前向きな彼女。
前向きだから…今まであんな進藤と一緒にいれたんだと思う。
ごめんね。
ありがとう―――
それから数カ月後―――進藤の離婚が世間に知られることになる。
子供も全員彼女が引き取って、進藤は一人ぼっちになった。
「寂しい?」
「んー…まぁな。静か過ぎてちょっと落ち着かねぇかも…」
「引越ししないの?」
「オマエの家に?」
「うん」
「え…」
即答した僕に、進藤は目を丸くして顔を上げてくる。
「いいの…か?」
「キミがいいなら…」
「塔矢」
「なに?」
「プロポーズ…してもいい?」
「出来たら早くお願いしたいかな。これ以上大きくなるとドレスが不格好だし…」
「塔矢〜っ!!」
抱きしめてきた彼は何度も何度もキスして――耳元で囁く。
本当なら、13年前に言って欲しかったこの一言。
――結婚しよう――
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