●SAVING TABOO 26●
塔矢の夫が倒れて救急車で運ばれたらしい。
子供達をあかりに任せて、オレも直ぐさま病院へと向かった――
「進藤…」
「塔矢っ!大丈夫か!?」
病室の前で突っ立ってた塔矢を抱きしめ――泣き場所を与えてやる。
「僕…は大丈夫。だけどあの人が…あの人が…」
一気に泣き出す塔矢。
「まだ死んだわけじゃないんだろ?落ち着けって!」
「でも…末期だって…癌で…あと数カ月しか持たないって先生が…」
「え……」
大泣きする彼女を更に強く抱きしめる。
大丈夫だ。
大丈夫だよ塔矢。
オレが…いるじゃん――
ガラッ
病室のドアが開いて――オレらは途端に固まった。
「あなた…」
抱き締め合ってるオレら。
塔矢はオレから離れようと慌てふためき、オレは離さまいと彼女を更に強く抱き寄せた。
そんなオレらに一瞬目をしかめ――笑ってくる。
「アキラ…進藤さん、入って。廊下で騒いでると迷惑だよ」
「あ…はい」
こんな時でも落ち着いてる塔矢の旦那。
相変わらずカッコいい。
でも、だからと言って塔矢を幸せに出来るわけじゃない。
残される者の方が辛いってこと……オレは知ってる。
「謝らなくちゃいけないな。キミらに…」
「……え?」
「俺は余計な存在だったね」
「何言って――」
口を挟もうとした塔矢に構わず続けてくる。
「俺は知ってたんだよ…最初から。俺が子供を作れない体だってこと…。だから君と結婚したんだよ…アキラ」
「え…?」
「君みたいな女性は結婚は紙の上だけのもので、子供より仕事を取ると思ってた」
そういえば昔…緒方さんが同じようなことを言ってた気がする。
「でも間違いだったね。君は仕事も家庭もこなせる素晴らしい女性だ」
「あなた…」
「君がマル◎だって言ってくれた時は正直嘘でも嬉しかったよ。離婚覚悟で俺は検査に行ったからね…」
「怒らないの…?だって僕…進藤と――」
「だから謝らなくちゃいけないって言っただろ?俺さえ邪魔しなければ…君は今頃進藤さんといい家庭を築けてたはずだ」
「やめて。進藤にはあかりさんが…」
ハハッと笑ってくる旦那。
なにもかもお見通しって顔。
…そうだよ。
塔矢が結婚しなかったら、オレだってあかりとなんか結婚してない。
あいつ…モテるもん。
もっといい男といい家庭を築けてたはずだ――
もう……遅いけど……
「進藤さん、アキラを頼むね。洋人も…」
「はい…」
「父親になる夢を見させてくれてありがとう」
どうせなら……全部夢だったらいいのに。
あの22の春にまで戻れたらいいのに。
ううん……まだ間に合うはずだ。
間に合わせてみせる―――
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