●SAVING TABOO 17●
私がヒカルを好きだと自覚したのはいつだったかな。
もうずいぶん昔―――小学生の時だと思う。
母親同士が仲良かったから、まるで兄弟のように一緒に育った私たち。
このままずっと一緒だと思ってた。
小学6年の時―――ヒカルが塔矢さんに会うまでは。
中学生になってからは、嫉妬するぐらいヒカルは塔矢塔矢って毎日言ってて…。
ライバルだって言うけど、この二人…いつかはくっついちゃうんだろうなって、勝手に思ってた。
だってヒカルは一目瞭然だし、塔矢さんも満更でもなさそうなんだもん。
高校生になってからはヒカルとはほとんど会わなくなって…
大学生になった頃にはヒカルが一人暮しを始めたからますますエスカレートしていって……気がついたら3年以上も会ってなかった。
ヒカルと塔矢さん…きっと今頃ラブラブなんだろうな…って、本気で諦めかけたその時―――週刊碁で見てしまったんだ。
『塔矢アキラ、結婚』
っていう記事を―――
「お帰り…ヒカル」
「………あかり?」
「おばさんに聞いたの、アパートの場所。来ちゃった…」
久々に会った幼なじみの顔は……死んでた。
私を睨んでくる――
「帰れよ…」
「イヤ」
「オレ、お前に構ってるヒマねぇし…」
「塔矢さん…今日が結婚式だったんだってね」
「………」
「ヒカルも行ってきたんだ…?」
「………はぁ」
溜め息をついたヒカルは、部屋の鍵を開けた。
私は黙って勝手についていく――
「あー重かった。何なんだよこの引き出物。趣味悪すぎ」
部屋の端にドカッと投げ捨てた。
「今時長ったらしい式なんか挙げんなよなー。パーティー感覚でいいじゃん」
「ま、秀英や永夏に会えたのは良かったけどさー」
「にしても塔矢のドレス、誰が選んだんだよ。ちっとも似合ってなかったし。つか、衣装替え多過ぎなんだよ」
私の前でうざったそうにスーツを脱ぎ捨てながら、ヒカルは不平を続ける。
ずっとイライラして…
でも、何だか無理してるようにも見えて…
「ヒカル」
「何だよ?さっさと帰れ」
私にずっと背を向けたままのヒカルの背中に―――後ろから抱き着いた。
「ヒカル…」
「あか…り?なに…」
「もういいよ…ヒカル。我慢しないで」
「は…?」
「泣いて…いいよ?」
「………」
ごめんね。
私、今日来るべきじゃなかった。
辛いでしょ?
好きな人を取られて…
結婚式にまで参加して…
したくもない祝福をして…
もし私がヒカルの立場だったら大泣きしてる。
…一人で…
「なに…言ってんだよ…。泣くわけ…ねぇじゃん…」
体を震わせながら…何とか我慢しようとしてる。
だけどストッパーが外れたように一気に溢れてくる涙。
静かに頬をつたって…流れ落ちていく――
「…好き…だったんだ…」
「うん…知ってる」
「オレ…塔矢が好きだった…」
「うん…」
「バカみてぇ…オレ…。さっさと告ればよかった…」
「………」
「バカみてぇ…」
「ヒカル…」
私って卑怯。
でも、これが神様のくれた最後のチャンスだと思うの。
ヒカルを手に入れるには、ヒカルが弱ってる今しかない――
「…ね、ヒカル。私じゃ塔矢さんの代わりにならない?」
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