●SAVING TABOO 16●




本当はこの6年間で…塔矢への気持ちは薄れてきてたんだ。

諦めとも言うけど…。

でも、このままあかりと一生過ごすのも悪くないかもって…思ってた。


だけど…塔矢とこんなことになって、また気持ちが復活してきた。


また、過去を悔やむようになった。







――今でも忘れられない22の春


全てはこの一言から始まったんだ――









「僕、今度結婚するんだよ」









「………へ?」



いつものように囲碁サロンで打っていると、塔矢が突然言い出した。

オレの体はその瞬間に固まってしまう。


血痕…?

いや、血痕するって意味不明だろ。


じゃあ…結婚?

結婚するって今言ったのか…?

結婚って……あの結婚のことか?



「誰…と?」

「後援会の会長の知り合いの息子さん。僕より5つ上かな。この前お見合いしたんだけど、カッコよくてすごくいい人だったから」


カッコよくていい人だったら結婚すんのかよ!?

意味わかんねー!

この面食いめっ!


「進藤はどう思う?」

「どうって言われても…」


ただオレをじっと見つめて…微妙に取ってくれるこの間合い。

何かを期待してる…?

おめでとうって言ってほしいのか…?

それともやめとけよって…止めてほしいのか……



「先週の日曜がね、結納だったんだ」

「早っ!マジ?!」

「僕も驚いてる。結婚式も来月に決まりそうだし」

「…へぇ」



その時のオレは、突然のことにただ驚くことしか出来なかった。

と同時に、オレの人生設計が全て崩れ落ちた気がした。

先日、オレは本因坊の挑戦権を獲得していた。

もうすぐ倉田さんとの七番勝負も始まる。

これに勝って、本因坊になって、そしたら―――塔矢に告るつもりだったんだ。

で、付き合って、何年かしたら結婚もして…子供も作って……



「結婚したら、こうやって度々打つのも難しくなるかもね」

「そう…だな」

「今のうちにいっぱい打っておこう?」

「………ああ」



その日以来、オレと塔矢はほぼ毎日打つことになる。

打つってことはもちろん二人きり。

二人だけの世界だ。

不謹慎だけど……告るチャンスは山ほどあった。



『好きだ』


『結婚なんかやめろよ』


『オレと付き合って』



心の中で何度もリピートしながらも、口には出さなかった。

出せなかった。

オレのプライドが許さなかった。

今のオレは女流タイトルも王座も持ってる塔矢に見合う男じゃない。


もう少しなのに…



……もう少し待ってくれたらよかったのに……



















―――そうして迎えた結婚式当日



「初めまして」


式の前に初めて会った塔矢の旦那になるこの男は、本当にかっこよくて、真面目そうで、優しそうで、頭良さそうで、世渡り上手そうで……


――負けた――

――敵わない――


本気でそう思った。



「塔矢……おめでと」


仕方なくオレが口にした祝福の言葉に、塔矢はただ苦笑いするだけだった。



あーあ…花嫁連れて逃走するアレ……やってみようかな…。

意味…ないか。

後で塔矢が怒り狂うだけだ…。


じゃあオレ…なんでこんな所にいるんだろ…


何やってんだろ……


なんで塔矢と旦那の誓いの言葉なんて聞いてんだろ…


なんでキスシーンなんか見せ付けられてんだろ…


なんで披露宴までのこのこ参加してるんだろ…


心の中じゃ全く祝ってないくせに、祝ってるフリなんかして……









「じゃあ進藤またなー」

「おー…」


同じく結婚式に参加してた棋士仲間と別れ、オレは一人自分のアパートに帰った。

右手にずっしりとある引き出物の数々が憎らしい。

帰ったら速攻捨ててやる。

帰ったら、一番にしたいことがある……

もう少しの我慢だ…





「ヒカル…お帰り」

「………あかり?」




アパートの前で待ってた女。


それが数年ぶりに会った幼なじみの…アイツだった―――




















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