●SAVING TABOO 15●





息子の目が開くようになって、予想以上の大きさに……僕は動揺を隠せなかった。

僕も夫もどちらかというと細みの、切れ長の目だ。

このクリクリパッチリの目は明らかに進藤からの遺伝…。




……どうしよう……




「本当、可愛いな〜」

「うん…そうだね…」


本当に気付いてないのか、気付いてるのに黙ってるのかは分からないけど……とにかく夫の反応は今までと変わらなかった。

だから僕も知らないフリをする。

男の子なのに異様なぐらい可愛くなっていく我が子の顔なんか気にせず、ただ、子育てに励んだ。

そして3ヶ月後には仕事に復帰。

家庭と仕事の両立という慌ただしい毎日が続いていく。


だけど―――






「……はぁ」

「ん?どした?塔矢」


棋院の玄関を出る時思わず出てしまった溜め息。

隣にいた進藤はすかさず訳を聞いてくる。


「どうもこうも…」

「育児ノイローゼか?」


ハハっと笑ってくる進藤の顔を睨んだ。


「違う。ただちょっとあの子の顔がね…」

「顔?オマエ似じゃなかったか?」

「うん…そう思ってたんだけど、何だか最近異様に可愛くなってきて…」

「うわっ、塔矢が親バカだ」

「そうじゃなくて、目とかがキミに似てきたって言ってるんだ!キミは可愛いだろ??」

「………マジ?」


いきなり真面目な顔になる進藤。


「写真…あるか?」

「うん…、昨日も携帯で撮ったから…」


待受にしている息子の写真を見せた。


「んー…言われてみればそんな気もするけど…。でも子供の目ってこんなもんじゃねぇの?オレとあかりの子供たちも皆こんな感じだし?」

「違うと思う…。キミの子供の目が皆大きいのは、キミもあかりさんも大きいからであって、普通は…」

棋院前を通りかかった小学生ぐらいの子供達をチラッとみた。

ほら、やっぱり十人十色だ。


「で?なに?旦那が疑ってんの?」

「そうじゃないけど…」

「ならいいじゃん。気にしすぎだって」

「………」


でも…感の鋭いお母さんや緒方さんは絶対にそのうち気付くと思う…。

もちろん、気付いても何も言わないかもしれないけど…。



「バレたらバレたで、別れちまえばいいんだよ」

「またそんなこと言う…。キミだってあかりさんと危うくなるかもしれないんだよ?」

「いいぜ?オレは別に。アイツが別れたいって言うならそれで」

「………」

「オレ、オマエの方が好きだもん。それはアイツだって知ってることだし、アイツはそれでもいいって言ったから――」

「キミ…女をバカにしてる。彼女との間に3人も作ってるくせに…」



あかりさんが可哀相だ……



「欲しくて作ったわけじゃねーよ」




バシッ



「――…ってー」





なんだろう…


頭の中で何かがプツンと切れた…


勝手に僕の手が…進藤の頬を叩いていた――


そして勝手に僕の口が――




「…ふざけるな…」


「いってぇな!ふざけてなんかねーよ!全部ホントのことだし!オレはずっとオマエが好きで、今でも好きで、あかりはずっと知ってることだ!こんなオレだって知っててアイツはオレと一緒になったんだ!嫌なら別れたらいいんだよ!」

「彼女の気持ち…考えたことある?」

「知らねぇよ!」

「キミの奥さんだろ?」

「オレは―――」


何かを言おうとして…ぎゅっと唇を噛み締めた。


僕を妻にしたかった…とでも、言いたいのか?

遅いよ。

そんなの今頃言ったって仕方ない。





言うなら、あの時言えば良かったんだ―――

















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