●SAVING TABOO 14●
母親になった塔矢は―――キレイだった
「おめでと、塔矢…」
「ありがとう…」
チラッと塔矢の横に突っ立ってる男を見た。
塔矢の旦那だ。
種無し男。
「進藤さん、久しぶりですね。本因坊戦、三勝おめでとうございます。あと一勝ですね」
「おいおい、それは俺に対する嫌みか?」
横で緒方さんが突っ込んだ。
ドッと笑いが起こる。
「塔矢…赤ん坊は?」
「ここだよ。見る?」
恐る恐るベビーベッドを覗き込んだ。
スヤスヤと死んだように眠ってる赤ん坊の顔は……どちらかというと塔矢似…かな?
ホッと溜め息が出る。
「ほう…猿みたいだな」
「緒方さんの意地悪」
オレの横から覗き込んだ緒方さんの一言で、塔矢がぷうっと頬を膨らました。
「そんな毒舌吐くから奥さんに愛想つかされるんですよーだ」
現在別居中のドロドロ緒方家。
痛いところを突かれて、ムムッと黙ってしまった。
「進藤、抱いてみる?」
「う…ん」
ベビーベッドからそっと赤ん坊を取り出して…自分の腕で抱いてみる。
「流石ですね。抱き方が上手い」
「…どうも」
塔矢の旦那が褒めるのを聞き流しながら――オレは赤ん坊の顔をウットリと眺めた。
可愛い。
マジ可愛い。
この子がオレと塔矢の…なんだよな。
あの忘れたくても忘れられない、ホテルでの数時間の結果…。
愛の結晶?
(オレの一方愛かもしれないけど)
「何もかもがミニチュアでしょ?ちょっとびっくりした」
塔矢がふふっと笑う。
「生まれたばかりだとこんなもんだよ…」
「ふーん」
「もう授乳させた?」
「うん、ビックリした。本当に出るんだもん」
「はは」
「口にあててあげるとね、眠ってるみたいなのに勝手に吸い出すんだよ」
「まぁそうだよな」
何もかもが新鮮で、嬉しそうに話す塔矢。
よっぽど欲しかったんだな…。
手伝ってあげて良かった…。
「いつまで入院?」
「何も問題なかったらあと5日ぐらいだって」
「ふーん。ま、今のうちに休んでおけよ。家に戻ったら大変だぞ」
「うん、ありがとう」
再び赤ん坊をベッドに戻して、もう一度塔矢の旦那をチラッと見た。
……いいな……
本当の父親はオレでも、父親面してこれからこの子を育てていけるのはこの男なんだ。
塔矢の隣が定位置なのもこの男。
悔しい。
こいつより塔矢のことを想ってる、幸せにしてやれる自信はあるのに。
すげぇ……悔しい――
「…じゃ、オレもう帰るよ。あかりが心配だし…」
「あかりさんは元気?」
「たぶん」
「もう少ししたら、キミの赤ちゃんとこの子、一緒に遊ばせたいね」
本気で言ってんのか…?
遺伝子的には姉弟だぞ…?
絶対に会わない方がいい。
一生―――
「…そうだな。じゃあ…」
――そうして
オレは逃げるように立ち去った。
ただ『悔しい』という後味を残して―――
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