●SAVING TABOO 13●
5月下旬に発売された週刊碁。
表紙は進藤と緒方さんの本因坊戦・七番勝負の結果と解説。
そして裏面には――進藤の新しい家族の写真が載っていた。
「………」
少し胸が痛むのは何故だろう。
この切なさは一体何なんだろう。
僕の気持ちが伝わったのか、お腹の子が暴れだした。
…そうだよ。
この人がキミの本当のお父さん。
でも実際にキミが『パパ』と呼ぶのは別の人だ。
ごめんね、嘘つきなママで。
もうすぐだね。
もうすぐキミは生まれてくる。
一体どんな顔をしてるのかな。
どんな性格になるのかな。
でもね、どんな子でも僕の子には変わりない。
例え父親が誰でも、僕の子供であることには変わりないんだ――
――6月中旬
僕は6時間の格闘の末、無事に男の子を出産した。
「可愛い赤ちゃんね〜。アキラさんが生まれた時とそっくりだわ」
母のこの言葉を聞いて、僕は内心ホッとした。
良かった。
一応は僕似…らしい。
でも、顔なんてどうでもいい。
生まれてきてくれたこと自体が嬉しい。
ずっとずっと欲しかった子供。
眠ってる我が子をそっと抱きしめて――体温や心臓の音を感じ取った。
「アキラ、お疲れ様」
「あなた…」
夫が軽く僕の頬にキスしてくれる。
「俺も抱いてもいい?」
「うん…」
僕の手の中から受け取った赤ちゃんを――夫もそっと抱きしめた。
「可愛いな」
「そうだね…」
「名前、何にしようか?」
「んー」
いつも以上にいい雰囲気の僕らを、両親は遠慮してるのか、少し離れてただ見守ってくれている。
「そうだわ。皆さんに連絡しなくちゃ」
と言って、母は病室を出て行った。
皆さん…って、誰だろ。
親戚?
門下の人達にも…かな?
なら、緒方さんにももちろんするよね?
今日は本因坊戦の第4局。
当然緒方さんと進藤は一緒にいるはず。
すると進藤の耳にも入っちゃうのかな?
進藤、僕らの子供…生まれたよ?
そのうち…会いにきてね?
「あらやだ、もうこんな時間。じゃあアキラさん、また明日も来ますね」
「うん、ありがとう」
夜7時――昨日からずっとついていてくれた母が帰って行った。
生まれたのが午前10時。
それからたくさんの人が祝いに来てくれた。
家族・親戚はもちろん、門下の人や棋院の関係者、碁会所の常連客。
「じゃあ俺もそろそろ帰るな。アキラも疲れただろ?」
「ん…大丈夫」
「明日も仕事の後寄るから」
「うん…」
夫も帰ろうとしたその時――
コンコン
「アキラ君?入るな?」
ノックの音と同時に聞こえたこの声――
「緒方…さん」
「おめでとう、アキラ君」
「ありがとうございます…」
そして緒方さんの後ろには――
「…進藤」
「おめでと、塔矢…」
NEXT