●SAVING TABOO 12●





「進藤本因坊、お子さん生まれたそうですね。おめでとうございます」

「ありがとうございます」




―――5月中旬

本因坊の防衛真っ最中に、無事三人目が生まれた。



「ごめんな。すぐ帰ってくるから」

「ううん。頑張って」


翌日に対局地の博多に向かわなくちゃならなかったオレを……あかりは文句の一つも言わずに送り出してくれる。

とりあえずはお互いの母親に頼んで、上の二人の面倒もあかりの世話もしてもらえることになったけど…。





「もし良ければ、お子さんの写真を戴けますか?本因坊や奥様も一緒に写っていれば、なおいいんですが…」

「はあ…」


一戦目の勝利のインタビューでは、時期が時期だけなこともあってか、オレのプライベートなことばかりを聞いてくる記者もいた。

ちょうど三人で写した写真を持ってたので借してあげる。

きっと来週の週刊碁はこの写真が裏面を飾るんだろうな…なんて思いながら。

二人目の時もそうだった。

仕事も私生活も順風満帆だとか、そういう見出しでオレのいい父親像をあることないこと書かれた。

タイトルホルダーの結婚・出産ネタが載った号は特に売れるから仕方ないんだろうけど…。

きっと塔矢の時なんて、裏面どころか表紙を独占しちゃうんだろうな。














「あれ?緒方さんもう帰っちゃうの?」


―――6月中旬

防衛戦も第4局になったところで、それが現実のことになる。


「さっきアキラ君が出産したと明子さんから連絡を受けてな。これから病院に直行だ」

「…ふぅん」

「お前も来るか?」

「え?」

「ライバルの母親姿を見るのも面白いかもしれんぞ」

「うん…じゃあ――」


内心ラッキーと思いながら、予定より5時間早い便に乗って東京に戻ることになった。

緒方さんに誘われたから一緒に来た――というあらすじは全然変じゃない。

単なる成り行きだ。

そして羽田から病院に向かう途中で、デパートに寄って祝いの品も買ったり。



「アキラ君もついに母親…か」

「……そうですね」


…だけど、後少しで病院という所で、ぼそっと緒方さんが運転席でぼやいた。


「似合わんな」

「そう…ですか?」

「ああ。アキラ君みたいなタイプの女は結婚は形だけで、実際には家庭より仕事を取る奴の方が多い」

「………」

「オレは子供はわざと作ってないのかと思ってたよ」

「…不妊で悩んでたみたいですよ?」

「不妊、な」

ククッと緒方さんが不気味な笑いをする。

「おかしな話だ」

「え…?」


何が言いたいのか意味が分からない緒方さんの横で――オレはただ余計なことを口走らないよう黙りこんだ。



もしかしてバレて…なんか、いないよな…?




「さーて、着いたぞ」

「うん…」

「先生のお孫さんの顔でも拝みにいくか」

「…うん」

「果たして誰に一番似てるのか楽しみだ」

「………」






オレ…もしかして…今、行くべきじゃない…?







「進藤、早く来い」

「あ、はい…」



期待と不安を伴った複雑な心境のまま、オレは緒方さんと一緒に病室に向かった―――


















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