●SAVING TABOO 11●
日に日に大きくなっていく僕のお腹。
優しく撫でて…話しかける。
「今日はいい天気だね」
「お散歩でも行こうか」
周りから見たら思いっきり独り言。
でもこういうの、してみたかった。
「あと2ヶ月…か」
楽しみだ。
僕の…子供。
旦那との…子供。
僕はずっとそう自分に言い聞かせている。
この子は夫との子供なんだ…って。
だけどたまに元気よく動いたりすると……
『進藤も活発な奴だったからな…』
とか、つい思ってしまう。
その度に夫に申し訳なくなる。
僕…本当に一生隠し通せるのかな…。
せめて、この子が僕似でありますように…――
「あれ?塔矢?」
「進藤…」
棋院に産休の書類を提出しに行った帰り、ロビーで指導碁帰りの進藤に会った。
「へー、オマエ産休に入るんだ?早いな」
「うん。初産だし…念のために早めに入っておこうと思って」
「ハハ、そうだったな。初産か〜」
懐かしそうに笑ってきた。
「あかりの時はさ、19時間もかかったんだぜ〜。さすがに途中で寝ちまったけどな」
「へぇ…」
「二人目は1時間ですんなり出てくれて助かったぜ。なんせ次の日本因坊リーグだったし」
「………」
あかりさんは僕より一ヶ月早く…三人目を出産するらしい。
三人目ってことで、進藤も余裕ぶってる。
ずるいな…。
僕は少し怖くて…不安でいっぱいなのに――
「旦那に…ついててもらえよ?」
「うん…」
「オレは行けないから…」
「…うん」
当たり前…だよね。
いくらキミの子でも…それは僕らしか知らないこと。
たかが仕事仲間のキミが、僕の出産を見守りに来ることなんて出来ない。
「「………はぁ」」
僕らは同時に溜め息をついてしまった。
僕もそうだけど……進藤もそう。
相変わらず割り切れないところがある。
この子は僕らの子…と思ってしまう。
「あかりさんの方は…女の子なんだってね」
「うん…。オマエの方は男…らしいな?」
「うん、良かったよ…。夫が長男だから…やっぱり後継ぎをってずいぶん言われてたから」
「ふーん…今時堅苦しい家」
「でもどこも同じだと思うよ?」
「まぁ…少子化だからな」
僕もキミも一人っ子。
だから…責任の重さとか、僕が子供を欲しがった訳とか…キミなら分かってくれるよね?
「あ、そうだ。これ…」
「え?」
進藤が上着のポケットから何かを取り出した。
これって……
「お守り…?」
「そ。水天宮で買ってきた」
「僕に…?」
「うん」
「…あかりさんのついで?」
「オマエにだけだって」
「………ありがとう」
進藤からお守りを受け取ると―――そのままぎゅっと手を握られた――
「頑張れよ…」
「うん…」
「生まれたら…そのうち見に行くな」
「うん…」
どうか無事に生まれますように――
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