●SAVING TABOO 1●
10代の頃は漠然としか考えてなかった『結婚』が――20代になると徐々に現実のものとなってくる。
事実、冴木さんや芦原さんは20代後半で結婚したし、伊角さんも25の時に奈瀬と結婚した。
和谷は23の時。
越智は21で、本田さんは28だったかな。
そして塔矢は……22の時だ。
後援会で勧められた男と見合いをして…そのまま――
そういうオレはその翌年の23の時。
相手は幼馴染みのアイツ。
あかりだ。
恋愛結婚でもなく見合い結婚でもないオレ達の結婚。
親同士が仲良かったから、上手いこと言いくるめられたって感じ。
まぁいっか…って最後は半分投げやりだった。
言っちゃ悪いけど、正直言って誰でも良かった。
もうどうでも良かった。
ま、あかりといると落ち着くし。
アイツ料理上手いし、それなりに可愛いし……別に不満はない。
おまけに子供にも恵まれて、オレらは今、5歳になる娘と4歳になる息子の二人の親だ。
家族の為に日々働くオレに、専業主婦として家事を頑張ってくれる妻と、元気に育ってる子供達。
まさに典型的な幸せ家族ってやつ?
結婚して早6年。
何だか人生図が見えてきて…このまま一生が終わるのかなって時に…事件は起きたんだ――
それはいつもと変わりない手合いの日。
棋聖リーグの二戦目。
相手は塔矢だった。
時間通りに対局が始まって、お昼になったから打ち掛けにして、塔矢と一緒に昼メシに向かう途中に―――彼女の頬が少し腫れてるのに気付いたんだ。
「あれ?オマエ…それどうしたんだ?」
オレがそう口に出すと、慌てて塔矢は髪で隠した。
「…別に。何でない」
「何でもないわけねーだろ?ちゃんと冷やしたのかよ?」
「ああ。別に痛くないから気にしないでくれ」
「………」
明らかに転んで出来たとか…何かにぶつかって出来たってケガじゃねぇな。
誰かに殴られた跡?
…まさかとは思うけど…――
「……それやったの…夫?」
そう言うと、動揺したかのように…一瞬だけ目を見開いてきた。
図星…かな?
「オマエの旦那って…妻に暴力ふるうような奴だったんだ…?」
「…キミには関係ないだろ」
「何だよ!人が心配してやってんのにっ」
「大きなお世話だ!キミはいいよね!あかりさんとラブラブで!」
「ラっ…――」
ラブラブ?!
どこが?!
んなもんとっくに通り越して、既に空気同然だし!
つーかオレのことは関係ねーだろっ!
「暴力ふるうような夫とは…別れた方がいいぜ?」
「簡単に言うな。それにこの怪我は……自業自得なんだ。僕も口が過ぎてしまって…」
「ケンカでもしたのか?」
「まぁ…ね」
「ふーん…」
コイツも夫婦喧嘩とかするんだな。
そりゃあオレだって無いわけじゃねーけど…。
でも塔矢の旦那ってさ、結婚式の時に一度会ったきりだけど……カッコよくて…穏和そうで…頭良さそうで…世渡り上手そうで…真面目そうで……
とてもじゃねーけど妻に暴力をふるうようなタイプに見えなかった。
――負けた――
――適わない――
そう思ったから…オレは―――
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