●SUMMER VACATION 8●






「オマエ、アレ似合いそう…」

「…は?」



何年か前――搭矢と同じ仕事が入って、一緒に飛行機に乗ったことがあった。

オレの席あたりを担当していたスッチーの仕事振りや身なりを見て、オレは本気でそう思ったんだ。


「うん、絶対似合う!」

「…フライトアテンダントが?」

「そ。オマエ背ぇデカいし顔キレイだし、おまけに英語とかも得意そうだから絶対に似合うって」

「馬鹿馬鹿しい。僕は棋士以外は御免だ」


あの時そう言ってたのに…。

でも、棋士を辞めて、真面目なオマエのことだから、他の仕事を始めなくちゃ…て思ったんだろうな。

オレが言った言葉を思いだしたのか?




なんか……急に塔矢が可愛く思えてきた……





「……塔矢」

「なに?」

「部屋、戻らねぇ?」

「え?でもキミ食事中じゃあ…」

「オレの腹はもともと機内食でいっぱいなの」


緒方さんの方をチラッと見た。

さっさと行ってこいっていう顔。


塔矢の手を掴んで―――パブを出た。




「進藤っ…早いっ。僕…ヒール…なんだっ」

「あ……ごめん」

「なにそんなに急いでるんだ」

「我慢出来なくて…」

「え…?」

「オレは外国人じゃないから、人前でキスとかハグとか…恥ずかしくて出来ない。だから、早く出来る場所に行きたかった…」

「進藤…」


掴んでた手を離して、今度は繋いだ。


このまま離したくない。

離さない。

もうどこにも行かせない。

今度はずっと側にいてもらう―――













「…あら?塔矢さん?」

「あ…チーフ。お疲れ様です」


エレベーターホールで塔矢の先輩スチュワーデスらしき人に出くわした。

慌てて繋いでいた手を離される。

………む。


「彼氏?」

「いえ…あのっ、違うんですけど…」

「違うの?」


真っ赤になって否定する塔矢を…後ろから抱きしめた――


「…そうなんですよー。なかなかOKしてくれなくてー。お姉さんからも言ってやって下さい」

「あらあら」

「進っ…!ふざけ―――」


久々のソレを言おうとした彼女の口をキスで塞いだ――


「あら…あらあら、頑張ってね塔矢さん」


ホホ…と先に先輩はエレベーターで上に行ってしまった。



「――…んっ、ふ…ふざけるな!何が人前じゃ恥ずかしくて出来ないだ!よりにもよって…」

「人前って言うか緒方さんの前な。いいじゃん、これで退職しやすくなっただろ?」

「……は?」

「寿退社♪とか、どう?」

「どう……って、その前に僕はまだ付き合うとは言ってないよ」

「うわ、往生際が悪いぞ」


再び上へのボタンを押してエレベーターに乗り込んだ。







「へー、緒方さんの部屋と造りが似てるな。広さも一緒ぐらい」


眺めは向こうの方がいいけど。

でも、ベッドの大きさは一緒。

ニマッとなる。


「一人部屋だろ?」

「そうだけど…」

「ふーん…」


窓際で落ち着かない様子で立ってる塔矢に近づき――再び抱きしめた。

髪にキスをして……耳元で囁く――



「今夜…一緒にいような」















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