●SUMMER VACATION 7●
タクシーで走ること約一時間。
着いたホテルはどこの都市にでもあるスターウッドの高級ホテルだった。
スッチーがビジネスホテルなんかに泊まるはずはないと思ってはいたけど……
「チェックインしてくる。ちょっと待ってろ」
「うん…」
緒方さんはずるい。
自分だけスーツでこのホテルの雰囲気に溶け込んでる。
オレのラフなジーンズにスニーカーは浮きまくり。
後で即行買い物に行こう。
ポーターを引き連れて緒方さんは帰ってきたけど、当然持ってもらう荷物なんかない。
エレベーターの場所だけ教えてもらって、さっさと部屋に向かった。
「何階?」
「14。1412号室だ」
「うわ…景色よさそう…」
部屋のドアを開けると、なんとまぁ…いい景色で泣けてきた。
パノラマビューな窓がロンドンの街並みを一望させてくれていて…
クラシックな調度品が置いてあるのにテレビは薄型の最新式。
シャワールームまであるバスルーム。
で?なにこれ。
「緒方さん…ベッド…ダブルですけど…」
「ツインの部屋が空いてなくてな。まぁアキラ君の部屋で寝るお前には関係ないだろう?絶対に追い出されるなよ」
「…頑張ります」
時計を見ると既に6時。
6時とはいえ、9時頃まで明るい夏のヨーロッパにとってはまだまだ夜は先。
とりあえず、買い物だ。
「近くにハロッズがあるが行ってみるか?」
「…なんかすんげー高そうな名前だよね」
「本因坊がケチケチするな」
「…はぁい」
何が悲しくてイギリス一の老舗デパートで下着や着替えを買わなくちゃいけないんだろう。
三日分…で足りるかな。
あと鞄と…スーツも買っておこう。
おお…すげぇな。
オレ、本場で買ってる。
ていうか高すぎ。
日本円に換算するのやめておこう。
「腹減ったな。パブにでも行くか」
「まだ飲むの??」
「こっちの酒も旨いぞ。お前も飲め」
連れて行かれたホテル近くのパブ。
高級街だからか居酒屋みたいな雰囲気ではなくて落ち着いてる感じ?
緒方さんが頼んでくれたビールと噂のフィッシュ&チップスを交互に口付ける。
「…で?アキラ君とは何時に会う予定なんだ?」
「7時ですけど…」
「もう過ぎてるが?」
「&¥$%=∞£??」
驚いて噎せてしまった。
「やべ…っ、戻らない…と」
「そう急ぐな。アキラ君をここに呼ぼう」
「え?」
素早く胸ポケットから携帯を取り出した緒方さん。
塔矢にコンタクトとってくれて―――10分後、スッチーの制服ではない、私服姿の塔矢が店に入ってきた。
オレらの姿を見つけた後、カウンターで自分も飲み物を買ってからやってくる。
「塔矢…ワンピースなんて着るんだ」
「悪い?」
「可愛い…」
塔矢は頬を少し赤く染め、早速口説きに入ったオレに緒方さんは薄笑いを浮かべた。
「スチュワーデスの仕事はどうだ?アキラ君」
「楽しいですね…。毎回違うメンバーとフライトですし、出会いが多くて新鮮です」
「それにしてもすごいな。一年も経ってないのに早から国際線担当だとは」
「それは……父の後援会のお陰です」
「ああ…そういえば先生の後援会には航空会社の要人もいらしたな」
「はい…」
「どうしてこの職業にしたんだ?アキラ君も憧れてたのか?」
「そういうわけでは……ないんですが」
また頬を赤め、チラッとオレに視線を送ってきた。
…オレ?
オレのせい?
オレ、別にオマエにスッチーになれなんて一言も……
――――あ
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