●SUMMER VACATION 6●
13時間後―――ようやくヒースロー、もといロンドンの空港に着いた。
毎度のことながら、空港に着いて一番にすることは、もちろん荷物の受け取り………
「荷物が…ない」
「安心しろ。俺もだ」
そういえば手合いの後成田に直行したから、手ぶらで来たことを今頃思いだした。
唯一持ってるものと言えば携帯(しかも充電器なし)、財布、パスポートに帰りのチケット。
「やばいって!緒方さん!着替えも何も持ってねーし!」
「足りないものはこっちで買えばいい」
「て言われても……財布の中からっぽ同然だし…」
「カードがあるだろ。こっちはカード社会だ。それより入国審査すませてさっさと市内にいくぞ」
「う…うん」
パスポートを取りに家に立ち寄った時に、せめて着替えだけでも鞄に入れてくればよかった…と後悔しながら、入国審査場へと向かった。
「すっげー列…」
さすがは夏休み。
審査場は長蛇の列で、しかもこの空港(国?)の入国審査はかなり厳しいらしい。
滞在日数・目的・泊まるところに同行者、過去の来英回数まで詳しく聞かれる。
もちろん英語で……
「緒方さんがいなかったら、オレ入国出来なかったかも…」
「今が夏休みでよかったな。閑散期だと一人ずつ念入りにチェックされるからな」
「げーー」
「しかし思ったより時間くったな。アキラ君はもうホテルに着いてるかもしれん」
パイロットやスチュワーデスはもちろん簡易の入国審査。
しかも空港から市内までも迎え付きらしい。
「アイツ…どこのホテルに泊まってるんだろ」
「一緒のホテルに泊まりたいのか?」
「出来たら…」
少し目を泳がすオレに、緒方さんはフンと笑いながら何やら予約センターに向かった。
どうやら緒方さんは塔矢が泊まるホテルも知ってるらしい。
「一部屋しか取らんからな。オマエはアキラ君の部屋にでも泊めてもらえ」
「ええ?!」
「ま、一応ツインにしておいてやるから、拒否られたら帰ってこい」
ハハっと笑ってくる緒方さんの言葉に少し赤くなりながら、タクシー乗り場に向かった。
…大丈夫。
アイツにオレを拒否る理由はないはず。
大丈夫大丈夫。
「…と、塔矢に電話しねぇと」
取りあえずさっきの紙をアドレス帳に登録し、通話ボタンを押した。
プルルルル…
プルルルル…
プルッ
『――はい』
「塔矢?オレ」
『うん…』
「今どこ?オレやっと空港出たばかりなんだけど」
『僕はもうホテルチェックインして、部屋に入ったところ。これから皆で夕食に行くから…7時には帰れると思う』
「ふーん…じゃあそれから行ってもいい?」
『……うん。…714号室だから』
「分かった。じゃあまた後で」
ピッ
フーッと緊張で息を穿くオレを見て、緒方さんがまた横で笑う。
「上手くいきそうだな」
「うーん…たぶん」
「頼むぞ。アキラ君を説得出来るのは、そもそもの原因のお前だけだからな」
「え?」
「いや――何でもない」
「……?」
714、714、714…
ホテルに着くまでの間、オレはずっと部屋番号をリピートしながら流れ行く景色を眺めていた――
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