●SUMMER VACATION 4●
食前酒でほろ酔い気分になった後、ディナーサービスが始まる。
(オレの場合コーラで酔えるわけねーけど)
「和食と洋食、どちらになさいますか?」
再び回ってきた塔矢が聞いてきた。
飛行機の食事っていうと……肉か魚、ビーフ・オア・フィッシュ?って聞かれるのが当たり前なのかと思ったけど、どうやらファーストクラスは違うらしい。
「俺は和食をもらおう」
「分かりました。進藤は?」
「じゃあ……洋食」
和食はまるで懐石料理。
洋食はオードブルから始まって、スープ、サラダ、メインにチーズにフルーツ、デザート……と続くフルコースだった。
フォアグラとか普通に使ってくるし、本当にこれが機内食?てなぐらいの内容。
「美味しかった?」
「おう!」
「よかった」
最後にコーヒーを入れてくれる塔矢の顔をジッと見つめてみた。
その視線に恥ずかしそうにも怪訝そうにも見える表情をしてくる。
塔矢…まだオレのことが好きだったりするのかな?
それとも心変わりしちゃった?
「…なぁ、オマエ休憩とかねーの?」
「この便は長距離線だから、交代で2時間ずつぐらいは仮眠とれるかな」
「ちょっと話さねぇ?」
「だから、仮眠の時間なんだ。無理に決まってるだろう」
「ちぇっ。じゃあ…向こうに着いたら時間空けれる?何もとんぼ返りってわけじゃねーだろ?」
「色々…予定があるから」
「少しだけでいいんだ」
「……」
ただ困った顔をして、後ろのサービスに行ってしまった。
ほんの2、3時間…ううん1時間でいい。
30分でもいい。
ちゃんと話す時間が欲しい。
それとも…オレと話なんかしたくない?
あんな振り方しておいて?
「塔矢、携帯の番号教えて?降りたら連絡するから」
再びコーヒーのおかわりに回ってきた塔矢にお願いしてみた。
横で緒方さんが笑ってくる。
「進藤、ただのナンパ野郎に見えるぞ」
「だって…」
「アキラ君、向こうに着いたら一緒に食事にいかないか?ソーホーにお勧めの店があるんだ」
「喜んで」
緒方さんの誘いにはすぐに(しかも笑顔付きで)承諾しやがった。
何だコイツ。
なんかムカつく。
勝手に棋士辞めて、勝手にアドレス変えてるのにもムカつく。
でも緒方さんにはちゃんと新しいアドレス教えて、仕事のスケジュールまで教えてて…
いや、きっと芦原さん達もアドレスぐらい知ってるだろう。
嫌味のように知らないのはオレだけで…
いっつもそうだ。
オレだけ仲間外れ。
オレにだけいっつも固い顔して、すぐに怒って……
それなのに
『好きなんだ』??
意味わかんねーよ!
オマエがそんな態度だから、オレだって
『冗談だろ?』
って言っちまったんじゃん。
あー!なんか異様にムカついてきた!!
「……ちょっと来いよ」
「え?あ…」
塔矢の腕を掴んで、後ろのデッキに引っ張っていった――
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