●SUMMER VACATION 3●
塔矢がオレの横をチラッと見た。
「…よかった」
「え…?」
「キミと彼女の婚前旅行にでも乗り合わせたのかと思った」
「んなわけ…」
そんなわけない。
だってオレ…今フリーだし。
塔矢がいなくなった瞬間から気持ちが冷めたっていうか……どうでもよくなった。
ぶっちゃけ、彼女どころじゃなくなった。
「緒方さん、何になさいます?」
「赤ワインをもらおうか。アキラ君のお勧めでいい」
「じゃあチリ産のアルタイールのシデラルを」
手慣れた手つきでワインをグラスに注いでいく。
配膳の笑顔、姿形はスッチーそのもの。
あの塔矢が――
「キミもワインにする?」
「…何でもいいや」
「そう」
何でもいいと言うと本当に適当に取って、グラスについでくれた。
一口飲んでみると―――ただのコーラ。
こいつ…。
「でも…緒方さんとだなんて珍しい組み合わせだね。ロンドンでイベントでもあるの?」
「そうじゃ…ねぇけど」
「進藤が塔矢に会いたい会いたい煩くてな。連れてきてやっただけだ」
「僕に…?」
驚いたように目を見開いてきた。
オレの顔をじっと見つめてくる――
「キミが…?」
「わ、悪いかよっ」
照れくさくて、少し赤くなるオレ。
でも塔矢は素で…真顔で『それ』を返してきた――
「冗談だろう?」
―――え―――
「じゃあごゆっくり」
と後ろの席のサービスへと移った塔矢を背に――オレの体は固まってしまう。
冗談…じゃないし。
オレ、本当にオマエに会いたくて……
…ううん、このショック感はそれだけじゃない。
あの時と同じ。
「好きなんだ」
って告ってきたアイツにオレは何て言った?
『冗談だろ?』
って――
………くそっ。
「バカだ…オレ」
なんて考えなしなんだろう。
何でもっと気の利いた言葉で返してやらなかったんだろう。
いつものように、他の奴に言ってるように、優しく断ればよかったじゃん。
「気持ちは嬉しいけど、彼女いるから」
とか…
「ごめん。他に好きな奴いるから…」
とか…。
「進藤?大丈夫か?」
自分が情けなくて涙を零したオレに――緒方さんはワイン片手に面白半分、アドバイスをくれる――
「何の為に来たのかよく考えろ。泣くだけなら家でも出来る」
「うん…だけど…」
「アキラ君はこのクラスの担当だ。何度でも横を通るし、これから何回もサービスにくる」
「うん…?」
「話す機会はいくらでもある。最低でも今の携帯アドレスぐらいは聞き出せよ。今後の為にな」
「………」
……そうだ。
オレ、泣く為にこんなとこまで来たんじゃない。
塔矢に会って、話して、謝って、説得して、帰ってきてもらおう。
最初のタイムリミットは13時間。
次の接触はこの後すぐあるディナーサービス。
マジで頑張らねぇと。
もう一度塔矢に横にいてもらう為に―――
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