●SUMMER VACATION 2●
いくら地方戦が多いといっても、移動は新幹線か羽田を利用することが多い。
海外棋戦もたまにはあるけど、最近じゃあ韓国や中国は普通に羽田から飛んでるし。
成田なんて三大タイトルの初戦とか、海外イベントにゲスト参加する時ぐらいしか使わない。
プライベートで旅行する時間なんてもちろんないし…。
「塔矢…遠くの国にいるんだ?アメリカとか?」
オレの質問に緒方さんはただ
「すぐに分かる」
とだけ。
すぐに分かるってことは…すぐに会えるんだ?
早く塔矢に会いたい。
何話すかなんてまだ決めてないけど、とにかく会いたい。
同時に…現実が襲ってくるけど――
「電話してもいい?」
「ああ」
二、三日で帰れないのなら、明日からのイベント…誰かに代わってもらわなきゃならない。
月曜の研究会にも出れないし、火曜の指導碁もキャンセル。
「お願いします!」
と電話なのに頭を下げて手合課に頼みこんだ。
「いけそうか?」
「…何とか。手配してみるけどって…。でもさすがに木曜までには帰ってこれるよね…?」
「お前次第だ」
「………」
木曜は当たり前だけど手合いの日。
木曜は絶対休めない。
これって塔矢より碁を取ってることになるのかな…?
でもこの一年、碁を理由にオレは塔矢を探すのを諦めてた気がする。
毎日あいつの顔を思いう浮かべてたくせに、動こうとしなかった。
ずっと逃げてた。
見てみぬ振りをしてた。
「そろそろ着くぞ」
「うん…」
成田に着いて、まず一番にしたことはもちろんチケットの購入。
緒方さんから手渡されたチケットを見てみると―――何とロンドン行き。
「塔矢…イギリスなんかにいるのか」
確かに二、三日で帰ってこれる距離じゃない。
留学でもしてるのか…?
「でもよく席取れたね。こんな夏休みに」
「ファーストだからな」
「え?!」
慌ててチケットを見返すと、確かにクラスが『F』になっていた。
さすが緒方棋聖名人様。
チェックインカウンターももちろん専用のとこだし、ラウンジなんかも普通に使って……何だかすげーカッコイイ。
これぞ大人の男?
普段着のままのオレは無償に居づらい…。
「そろそろ時間だな」
「ロンドンまで何時間ぐらいなの?」
「13時間ってとこだな」
「げっ。長っ」
「だからいいんだろ。それだけあれば何でも出来るぞ、アキラ君と」
「は…?」
早く着いて塔矢に会う気満々のオレと違って、緒方さんはこのフライトの時間が重要かのように言ってくる。
なぜだかはすぐに分かった。
飛行機に乗って、飛び立ったらすぐに客室乗務員がドリンクサービスに回ってくる。
「ご搭乗ありがとうございます。お飲みものはいかがなさいますか?」
「えっと…」
顔を上げて、そのスッチーの顔を見た瞬間―――オレは固まってしまった。
「塔…矢?」
「え?し…進藤?!」
―――そう
塔矢はフライトアテンダントに転職していたんだ――
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