●SUMMER VACATION 17●
「ご搭乗ありがとうございます」
再びオレの回りの担当になった塔矢。
彼女のスッチー姿を目に焼き付けておこうと、ずっと仕事をぶりを目で追って眺めていた。
……楽しかったな。
塔矢と一日中一緒にいれて、すげぇ楽しい2日間だった。
でも―――これで終わり。
塔矢のCA生活もこれで終わりにしてやる。
「塔矢塔矢、ちょっと」
「え?」
ビジネスとの境のデッキに呼び出し、周りに誰もいないことを確認してから、ポケットからソレを取り出した。
「これ…って」
「そ、指輪。ヒースローに行く前にピカデリー・サーカス立ち寄って買ってきたんだ。Garrardっていう有名な宝石店らしいぜ、よく分かんないけど」
「………」
左手を取って――薬指にはめてやった。
「どうして……今なんだ」
「仕事の邪魔して悪かったよ。でも、東京に着いてからじゃ遅いと思ったんだ。オマエ…まだ迷ってるだろ?絶対にイエスって言ってもらうには、今しかないと思った」
「………」
「何度も言うけど、オレ…本気だから。オマエが戻ってきてくれるなら、何だってする」
「………」
指先と…頬にも軽くキスをして、席に戻った。
これでたぶん…大丈夫。
9割方、戻ってきてくれるはず。
大丈夫大丈夫大丈夫…と自分で自分を言い聞かせた。
日本まであと11時間。
後はもうひたすら寝て、とにかく時間が過ぎるのを待った――
「やはり暑いな、東京は」
「うん…」
再び戻ってきた東京。
久々の日本語にホッとしつつ、塔矢との待ち合わせ場所であるJRに向かう。
「俺はタクシーで帰る。じゃあ検討を祈るぞ、進藤」
「うん……あ。ありがとうございました、緒方先生。塔矢に会わせてくれて…」
「お前の為じゃない。碁界の為だ」
「ですよね〜やっぱ」
「頼んだぞ」
「はい…」
緒方さんとも別れ、改札前で待つこと30分。
「お待たせ」
塔矢が来た―――薬指にさっきの指輪をはめて。
「指輪…してくれたんだな」
「うん…まぁ」
「それ、OKって思っていいんだよな?」
「うん……いいよ」
「塔矢…!」
肩の荷が一気に下りて、ホッとして、感情が抑え切れなくなって―――涙が溢れ出てきた。
ぎゅっと…周りのことなんか忘れて彼女を抱きしめた――
「よかった…塔矢…よかった」
「進藤…」
「もう離さないから…離れないからな」
「うん…」
端から見たらただのバカップル。
塔矢が恥ずかしがるのも無視して、電車を待ってる間も乗ってる間も降りてからも、ずっと手を繋いでキスをして…抱き着いていた――
NEXT