●SUMMER VACATION 16●
「おはようございまーすっ」
「おはよう。進藤、アキラ君」
「おはようございます」
翌朝―――朝食を食べにレストランに行くと、緒方さんと昨日の長身美人が一緒に食事中だった。
どうやらオレの予想は当たったみたい?
「よく眠れたか?」
と意地悪く緒方さんが聞いてきたので、塔矢は真っ赤な顔になって「ええ…まぁ」とか答えていた。
「塔矢、何時から仕事?」
「これ食べたらすぐ準備して出るよ。10時にロビー集合だから」
「夕方の便なのに早くね?」
「打ち合わせがあるからね」
「ふーん…」
帰るのは惜しいけど、塔矢のスッチー姿をまた見れるのはちょっと嬉しい。
似合ってるんだよな。
作り笑顔も元々上手いし。
でも………オレが好きなあの目付き。
睨むような鋭い勝負者の目はこの仕事では見れない。
もう一度見たい。
碁盤越しにオレの前であの顔を向けてほしい。
ああ……ドキドキしてきた。
塔矢はもう決めてるのかな?
それとも帰りの長い飛行時間でもう一度検討か?
「…成田のどこで待ち合わせる?」
「キミ、タクシーで帰るのか?」
「別に電車でもいいけど?」
「じゃあJRの改札前で待っててくれる?着替えるから少し遅くなると思うんだけど…」
「分かった」
朝食を終えた塔矢は、さっさと荷物をまとめて部屋を後にした。
「じゃあ…また飛行機で」
「ああ」
チュッ…と軽くキスをして、エレベーターのドアが閉まるまで見届けた。
その後、オレは上の緒方先生の部屋に戻る――
ピンポーン
部屋に入ると、やっぱりベッドが一番に目に入った。
シーツの荒れ具合とか、シミとか…長い髪の毛とかリアルすぎてうわぁ…となる。
「…あのスッチーと寝たんだ?」
「ああ。なかなかよかった」
「ふぅん…」
タバコに火を点けた緒方さんがカーテンを開けて、外を見ながら一服始めた。
「オマエもアキラ君とヤったんだろ?」
「…まぁ」
「戻ってきてくれそうか?」
「やれることは全部やったつもりだけど……どうだろ」
「ったく。元はと言えばオマエがアキラ君を振るからこんなややこしい羽目になったんだ」
「すみません…」
「もしこれで戻ってこなかったら、責任持って戻ってくるまでアキラ君のフライトに通いつめろよ」
「……は?」
緒方さんが鞄から何やら紙を取り出してきた。
「スケジュール…?塔矢の?」
「ああ」
「すげ…」
「明子夫人から横流ししてもらった」
渡された塔矢の月間スケジュールに思わず目が丸くなってしまった。
このロンドンの後は3日明けてソウル。
ソウルからそのまま乗り継いでシドニー。
ニューヨークにブエノスアイレス。
北京から西安って……
「アキラ君は数ヶ国を操るから、外国の航空会社に日本語乗務員として借り出されることが圧倒的に多い」
「体壊しそう…」
オレも仕事での移動距離は月間で考えたらかなりのものだけど……桁が違う。
外国だと当然時差もある。
考えただけで頭がおかしくなりそうだ。
「通いつめれそうか?」
「無理…絶対」
「なら、一発で決めろ。今回のチャンスを逃すな。帰りのフライトで確実に仕留めろよ」
でも……これ以上何をすればいいんだ?
もうやれることは全部……………あ。
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