●SUMMER VACATION 10●
「塔…矢………好き…」
という終わってる自分の寝言で目が覚めた。
横(下?)にいたはずの彼女がいないので、慌てて体を起こす――
「塔矢っ!?塔矢!塔っ――」
「煩い!朝っぱらから近所迷惑だ」
バタンッとバスルームから彼女が出てきた。
「あ…シャワー浴びてたのか」
「キミが容赦なく中で…出してくれたからね」
「う…ごめん」
バスローブの隙間から見え隠れする肌には赤いキスマークがあちこちにあって、改めて昨夜の失態(?)を思い出してきた。
ちょっと恥ずかしい…。
「…で?棋士に帰ってくれる気になった?」
「そうだね…検討しておくよ」
「えー曖昧だなぁ。オレとのエッチ、微妙だった?」
「それとこれは話が別だ」
それもそうか。
というか、微妙かどうかさえも分かんないはず。
ベッドのシーツに残ってる薄い血がそれを教えてくれてる。
当たり前だけど……コイツ初めてだったんだ――
「メシ食いに行こうぜ。高級ホテルのバイキング、オレ大好きなんだ〜♪」
「いいよ。緒方さんも誘う?」
「えー…やだ。と言いたいけど、たぶんもう居るな。年寄りは起きるのが早いから」
一緒に下のレストランに行くと、案の定既に食べ終わった緒方さんがコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
「おはようございまーす」
「おはようございます、緒方さん」
「ああ、おはよう」
「隣、いいですか?」
「ああ」
新聞を畳んで、オレと塔矢の顔を交互に見てきた。
「で?仲直りしたのか?」
「仲直りもなにも……最初からケンカなんてしてないんスけど」
「夫婦の仲直りはセックスが一番だ」
「夫婦でもないんスけど…」
朝から大丈夫か?この親父。
「キスマーク、発見」
「きゃ…っ」
塔矢の珍しく女っぽい声がして慌てて横を見ると、ロングヘアーの長身美人が塔矢の首筋をなぞっていた。
「チーフから聞いたわよー。どちらが彼氏?」
どうやらまたスッチー仲間らしい。
「あら?昨日のファーストにいらしたお客様ね」
ふふっと笑ってきた。
「今日お暇ですか?一緒に観光でもいかがですか?」
「赤井川先輩…」
「あ、オレだめ。塔矢と観光する予定だもん」
「俺でよければ構わんが…」
にっこりと微笑んだ長身美人と、緒方さんはさっさとレストランを出て行ってしまった。
「…僕はキミと観光する予定なのか?」
「当たり前だろー。言葉の通じない異国でオレを一人にする気かよ!婚前旅行婚前旅行♪」
「……」
ポッと頬は赤めるものの、肝心なことは何一つうんとは言ってくれない。
明日の夕方にはもう帰国。
迫ってくるタイムリミットに、時計を見たオレは焦りを感じ始めていた―――
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