●SUKI 3●
「出たで〜」
「あ、じゃあ次は僕が入るよ」
塔矢と入れ違いで部屋に入ってきた社が早速布団の中に入った。
「いいお湯やったわ〜」
「…なぁ社」
「ん?」
「オマエさっき彼女の話してたじゃん?」
「そやな」
社の枕元に移動して、少し小声で続けた。
「その彼女とさ…ヤったことある?」
「は?」
社が上半身をガバッと起こした。
「いきなり何言い出すんや、自分!」
「いいから答えろよ。したことあるのか?ないのか?」
「…ある」
よしっ
「どんな感じだった?やっぱ…気持ち良かった?」
ちょっとワクワクして聞いてみた。
「あー…初めてん時はそんなん楽しむ余裕なかったわ」
「え…そうなんだ」
「こっちも初めて、あっちも初めてやったから、もう何がなんだか分からんまま終わってもた」
「……」
初めて同士はあかんわ、と社がぼやいた。
そういうもんなのかな…?
塔矢って初めて…だよな?
「なんやねん突然…」
「いや、ちょっと聞いてみただけ…」
大丈夫かなぁ…。
急に不安になってきた…。
「あー…じゃあさ、オマエだったら全然好きでもない奴…抱ける?」
「は?」
社の眉間にシワが寄った。
「誰でもっちゅーんは無理やわ…。オレまだそこまで人間出来てない…」
「やっぱそう…だよな」
「まぁ多少好みな容姿の子やったら…たぶん」
好み?
塔矢は別に好みじゃねーよな。
「じゃあ…好みじゃない奴が抱いて…って来たら?」
社が頭を抱え込んだ。
「…進藤オマエなぁ…何かの心理テストなんか?」
「違うけど…」
思いっきり溜め息をつかれてしまった。
「そやなぁ…どうしてもって言われたら…抱いてやっても…」
「そう…なんだ」
「あ、でもそれは彼女がおらん時の話やで?彼女がおったらその子一筋やもん俺」
「へぇ…」
社って結構いい奴なんだな。
というかそれが普通なのか?
オレがおかしいのかな…。
でも好きだって言ってきたのは塔矢だし。
抱いてとは言われてないけど、多少その気持ちを利用してもいいよな…?
「進藤って変な奴やな…」
「そうか?」
「お前今まで好きな奴とか一人もおらんかったんか?」
「え…」
好きな奴…?
そういえば…現在進行形でいたことねぇな…。
じゃあオレってもしかしなくても初恋もまだなのか?!
もう16なのに!
「いないと…ヤバいかな…?」
「いや、ヤバくはないけどな…。いた方が人生楽しいやん?」
「……」
そうなのかな…?
彼女なんてあれ買ってこれ買ってとか、休み空けといてとか、クリスマスとか誕生日とかイベントにもうるさそうだし…ウザいだけの気がするんだけど…。
「オレ別に彼女なんていらねぇ…」
「いや、彼女までいかんでもな、好きな奴がおるだけで結構楽しくなるもんやで?会えたー目があったー話せたーとかで」
「…ふーん」
そういうもんか?
じゃあ塔矢も楽しいのかな…?
そういえばオレがあいつの碁会所に行くとめちゃくちゃ嬉しそうな顔するんだよな。
今までオレと碁が打てるから嬉しいのかと思ってたけど…実は違ったのかな。
何か皆ずりぃな…。
「どうやったら好きな奴って出来ると思う?」
「えー…こればっかりはなぁ…。気持ちの問題やし…。どうやってって言われても…」
「…だよな」
はぁ…と大きな溜め息をついた。
「お前みたいな奴は取りあえず誰かと付き合ってみるとか…。そしたら自然と気持ちも変わるかもしれんしな…」
「なるほど…」
誰かと…。
って誰と?!
「進藤ってそれなりに女子にもモテそうやけど…告白とかされたことないん?」
「あー…そういえば何回か…」
院生の子とか飲み会で会った子とか…さっきも塔矢にされたし。
「今度されたら試しに付き合ってみたらどうや?無理だと思ったら別れたらいいだけの話やし」
「そうだな…そうするか」
ちょうど塔矢に告白されてるし、付き合ってみるのも悪くねーかも!
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