●SUKI 1●
「塔矢って好きな子とかおるん?」
社のその質問に塔矢が頬を赤くした―
もうすぐ待ちに待った二度目の北斗杯。
それに合わせて社が昨日上京してきたから、オレらメンバー3人は今年も塔矢ん家で合宿することになった。
先生達は相変わらず外国に行ったきりなので、気がねなく碁が打ち放題で最高の環境だ。
去年とメンバーは変わってないので最初からだいぶ気持ちが打ち解けれていて、碁以外にも近況とか話しあったりした。
それが夜になるとその話し合いも自然とそういう方向に向かっていく。
で、今の質問だ。
社は先ほど大阪にいる彼女の話をしたばかりで、顔が赤くなっている。
ちなみにお前らはどうなんや!と、先に塔矢に話を振ったのだ。
「え…僕は…別に―」
塔矢の顔が誰かを思い浮かべたように徐々に赤くなっていった。
「何や〜その反応。おるんやな?話してみぃ」
「い、いないよ!好きな子なんて…」
更に真っ赤になってる。
それは質問を肯定してるようなものだ。
へぇ…塔矢にもそういう奴がいるんだな。
「誰なんだよ、塔矢」
「進藤まで…!いないって言ってるだろ?!」
「嘘だな、顔にいるって書いてあるもん」
「そうやそうや〜、吐いてまいや塔矢」
二人で塔矢を追い詰めてみる。
「いないものはいないんだ!」
耐え切れなくなった塔矢が机を叩いて立ち上がった。
話したくなくて必死な様子だ。
「…じゃあ進藤の方はどうなんだ?いるのか?!」
「え?オレ?」
いきなり自分に振られてたじろいだ。
「そうや、進藤もおるんか?」
「んー…いるかなぁ?いないかなぁ…?」
考えてるオレを見て二人が目をきょとんとさせた。
「いや、進藤。考えてる時点であかんやろ」
「え?そう?」
「何やもう…オレだけかいな…。話し損や」
つまらんわ、と社がぼやいた。
そんなこと言ったって…。
あんまり考えたことなかったし。
碁ばっかりの生活で出会いも少ねーし。
高校行ってる社とは環境が違う。
―でも
同じ環境にいるような塔矢にはそういう奴…いるんだ?
まだ少し赤くなって下向いてるし。
ちぇっ…
いいなぁ…。
付き合ってなくても、そういう奴がいるってだけで羨ましいし、ちょっと負けてる気がして悔しかった。
誰なんだろ…。
女流の誰かかな。
それとも海王中ん時のクラスメートとか…先輩とか後輩か?
「もう遅いし、寝よう」
塔矢が話を打ち切りたいように促してきた。
「あ、じゃあオレ先風呂入ってもえぇ?」
「どうぞ」
社を見送った後、すぐさま隣りの客間に布団を敷き始めたので、オレも慌てて手伝いに行った。
「……」
何にも喋らねーな…。
黙々と布団を敷いている。
その沈黙が耐えられなくなってオレの方から話しかけた。
「あー…塔矢さぁ、オマエも好きな奴とかいたんだな…。碁ばっかりだと思ってたから…ちょっとビックリしたぜ」
「……」
「オレも知ってる奴…?」
「……」
「どうなんだよ?」
「……」
相変わらずだんまりで、そのうち布団を敷き終わった塔矢がまた居間に帰ろうと背を向けた。
「塔矢!ムシすんなよ!」
腕を掴んで引き止めてみた。
横から見えた顔はますます赤くなって泣きそうになっている。
「あー…ごめん。そんなに話したくなけりゃ別に…」
「……」
「ただちょっと興味があっただけだよ…。オマエが好きになるのってどんな奴かなぁって…」
「……」
「でも無理強いするつもりはねーから…。この話は終わり!社が戻ってくるまでさっきの対局の検討でもしようぜ」
急いで碁盤の前まで移動した。
やべぇ…大会前なのに変な雰囲気作りたくねーよ。
「…キミだよ」
微かに塔矢が何かを言ったのが聞こえた。
「え?」
顔を赤くしたままオレの方を見てる。
「僕は…キミが好きなんだ…」
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