●STAY NIGTH 2●
ピンポーン
ピンポーン
「進藤、いらっしゃい」
「おじゃまします…」
約束通り塔矢ん家に行くと、笑顔で出迎えてくれた。
昨日棋士仲間の奴らに変なことを吹き込まれたから、彼女の顔をあんまり直視出来ない。
ったく。
アイツら、オレと塔矢の清く正しく美しいライバルの関係を何だと思ってやがるんだ。
冷やかしに耐えられなくなって、とっさに
「他に好きな奴いるし」
とか言っちゃったが……そんな奴いるわけがなかったりする。
にしてもそんなにオレらのお泊まり碁って変なのかな…?
しかもオレらに体の接触がないのを異常みたいに言ってくるし…。
昨日もあの後……―
「進藤、次いつ塔矢ん家泊まるんだよ?」
「あー…一応明日ってことになってるけど?」
「ふーん。じゃあさ、いいものやるから挑戦してこいよ」
「は?」
無理やり渡された紙袋を開けてみると、中には例の避妊具が入っていた。
思わず投げ捨てる。
「オ、オレ好きな奴いるって言っただろ?!何で…っ」
「ばーか。こういうのは経験がものをいうんだぜ?」
「そうそ。大事な彼女とする時に失敗したら困るだろ?いい機会だから塔矢と練習しておけって」
「ふざけんなっ!練習って……んなことしたら塔矢に殺される気がする」
「大丈夫大丈夫。塔矢だって嫌いな男を家に泊めたりしないと思うしな。結構気に入られてると思うぜ、お前」
「男なら当たって砕けろ」
「あのなぁ…それでもし断られたら、その後がすげー気まずくなるじゃん」
もう二度と泊めてくれなくなるかも…。
下手したらまた絶交…。
「でももし成功したら最高だと思わねぇ?童貞は捨てれるし、経験も積めるし」
「めちゃくちゃ気持ちいいしな〜」
「………」
思わず唾を飲み込んでしまった。
確かにこいつらの言うことも一理ある…。
もし塔矢が受け入れてくれるのなら……いつかの為に練習しておくのもいいかも…?
でも普通に考えてまず無理だよなぁ…。
だって塔矢だぜ?!
超が付くほどの堅物の!
「あのな進藤、こういうのは流れが決め手だからな」
「へ?」
「その気のない女だって雰囲気次第でどうとでもなるもんなんだよ」
「雰囲気…」
「そ。いかに自然にそういう方向に持って行けるかが勝負だからな」
「ダメだと思ったら酒の力借りちまえ」
「だからオレまだ16だって…」
「何の為に自販機があると思ってんですか、進藤クン」
「………」
はぁ…。
アイツらのアドバイスを思い返しただけでも溜め息が出る…。
一体何考えんだ…?
絶対面白がってるよな…。
もしかしたら賭けの対象にされてるかも?
オレが今晩塔矢と出来るか出来ないかって。
オレなら絶対出来ない方に賭けるな…。
あーあ。
今までは純粋に打つ為だけにここに来てたのに……何か情けなくなってきた。
……とか言いつつ一応例のやつもちゃんと持ってきた自分に笑える…。
やっぱオレもしょせん男ってことか…。
「…なぁ塔矢、この辺て自販機あんのか?」
「のど渇いた?なら冷蔵庫にたくさん入ってるから、どれでも好きに飲んでくれ」
「……ほーい」
アルコールの自販機については聞き出すことが出来そうになくて、しぶしぶ冷蔵庫を開けることにした。
にしてもいつ見てもすげーデカい冷蔵庫だな。
何人暮し用だよ。
まず3人用ではないな。
「……あれ?」
適当にリンゴジュースの缶を手に取って、急いで塔矢のいる居間に帰る。
「めちゃくちゃ飲み物入ってたな」
「全部お中元だよ」
「……ビールも入ってたけど」
「それもお中元。たまに緒方さん達が来られた時に出してるんだ」
「へぇ……オレも飲んでいい?」
ボソッとそう言うと、塔矢は一瞬目を見開いた後…睨み付けてきた。
「キミはまだ16だろ?」
「いいじゃん。すげー高そうなビールだったからさ、ちょっと味見してみたいな〜なんて」
「……」
「あ、もちろん寝る前でいいんだ。あんま早くから飲むと対局になんねーし」
「……」
「な、塔矢。お願い」
下目遣いでおねだりすると折れたように溜め息を吐いてきた。
「……仕方ないな。一缶だけだぞ?」
「うん、サンキュー塔矢。大好き」
「………」
少し塔矢の顔が赤くなったのは気のせいか…?
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