●STAY NIGHT 1●


「塔矢?」

「そ。進藤お前、塔矢のことどう思ってんだよ?」

「どうって……ライバル」



休憩室前を通りかかると、男の子達が集まって僕の話をしていた。

僕のライバル・進藤にも僕について尋ねてる。

彼の口からもその『ライバル』という言葉が出て安堵したのも束の間、周りの男の子達は大爆笑しだした。



「はは、それ本気で言ってんじゃないよな?」

「何だよ。オレじゃ塔矢のライバルに相応しくないって言うのかよ。これでも最近の戦績は五分五分だぜ?!」

「ばーか。そういう意味で言ったんじゃねーよ。お前分かってんのか?塔矢アキラって女だぜ?女!」

「だから…?」

「お前さ、女のアイツと毎晩遅くまで打ってんだって?しかも二人きりで!」

「…うん」

「その上検討が長引いてお互いの家に泊ったこともあるって聞いたぞ?」

「あるよ。塔矢ん家、今両親が外国行ってるからさ、気兼ねなく打ち放題・泊まり放題なんだ。最高だと思わねぇ?」

「まぁある意味最高だな」


周りの男の子達が何を進藤に言いたいのか、段々読めてきた気がする…。


「間違いとか起こんねぇわけ?」

「一つ屋根の下で寝てんだろ?」

「つか本当はもう一回ぐらいやっちゃってるんじゃねーの?」

「なっ…!」


進藤が真っ赤になって椅子から立ち上がった―。


「なななに言ってんだお前ら!んなことあるわけねーじゃん!」

「その動揺が怪しい…」

「正直に吐いちまえよ、進藤」

「マジで何もないって!オレらはただのライバルで、別に付き合ってるとかじゃねーからな!」

「ライバルねぇ…」


彼らは僕らの関係に納得出来ないみたいだ。


「普通そんなに一緒にいたらさ、ライバルでも自然と恋愛感情とか持っちまわねぇ?」

「ないないない!絶対にねーよ!だいたいオレ他に好きな奴いるし!」

「あ、そうなんだ?なーんだ」


そう…なんだ。

進藤って…好きな子いたんだ…。


何だか妙に胸が苦しくなって、僕は慌ててトイレにかけこんだ―。


この苦しさは一体何だ?

このすっきりしないモヤモヤ感は?

微妙にムカムカもするぞ?!

訳が分からない!


だけど、昼からの対局中ずっとその意味を考えていたら………答えが出た。



これが恋というものなのかもしれない…。



実際それを意識して進藤の方を見ると、異様にドキドキしたし。

帰りに一緒に碁会所に行って検討している時も、少し彼の手が触れるだけで心臓が飛び出しそうだったし。

可愛い彼の顔はいくら見ても見足りないし。

そうか。

これが恋なのか。

僕は進藤が好きだったのか。

そうかそうか。


――と納得したのも束の間、重要なことを思い出した。



『他に好きな奴いるし』



あれ…?

じゃあ僕…気付いたばかりなのに失恋したことになるのか?

ガクッと一気に机に倒れこんだ。

「と、塔矢?!大丈夫か?!」

「うん…平気」

作り笑いをしながら何とか起き上がったものの、気分は落ち込んだままだ。


くそっ!

誰だ?!

彼に好かれたラッキーガールは!!

女流の誰かか?!

昔のクラスメートか?!

幼馴染みのあの彼女か?!

何で僕じゃないんだ!

キミと一番一緒にいるのはこの僕なのに!!



「あ…あのさ、塔矢」

「え?」

「明日、オマエん家で泊まりで打とうって言ってたじゃん?」

「ああ…そういえば」

「やっぱやめにしねぇ?」

「……」


気まずそうに進藤が言い出した。

きっと昼間に彼らに色々言われたから気にしているんだろう。

いつもの僕なら

「別に構わないよ」

と言うところだが、残念ながら今の僕は違う。

そう安々と好きな人と共有出来る時間を減らしてたまるか。

ほら、修学旅行とかお泊まり会には恋バナは付きものだって言うだろう?

そのノリでキミの意中の人が誰なのか探ってやる!


「えー…折角キミと打つ為にわざわざ予定変更したのに…。何か用事でも入ったのか?」

「そういうわけじゃないんだけど……」

「なら別にいいじゃないか。予定を遂行しよう」

「……うん」

進藤が顔を赤くしながら一応首を縦に振ってくれた。


よしっ!

明日が決戦の時だ!
















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