●SUMMER VACATION 〜SOUL〜 2●
「おはようございます」
「おはよう、塔矢さん」
「おはよう。今日はよろしくね」
二日後―――成田で他のフライトメンバーと合流して、いつものブリーフィングが始まった。
今日の担当はビジネスクラス。
乗客名簿に軽く目を通していると―――やっぱり思った通りの名前があった。
『進藤ヒカル』
「どうしたの?塔矢さん。知ってる方でもいた?」
「え?あ…はい。ちょっと…」
「どの方?進藤…ヒカルさん?もしかして恋人?」
恋人…?
進藤が…僕の恋人?
まだ信じられなくて、実感がなくて、頷くことが出来なかった。
「ご搭乗ありがとうございます」
搭乗時間になって、僕はゲートで案内係をサポートしていた。
本来ならグランドスタッフの仕事だけど、韓国語が話せるスタッフが足りないらしい。
チラッと窓際に視線を送ると、遠目に僕を見ている彼がいた。
ビジネス以前に上級会員のくせに、エコノミーの搭乗が始まっても一向に動かない進藤。
ずっと僕の仕事振りを見てニコニコしている。
全員がゲートを通り終えた後、やっとこっちにやってきた。
「よ、塔矢」
「進藤…」
「この前と制服違うんだな」
「コードシェア便だからね」
こっちも可愛い…とスカーフの端をなぞられる。
「…ソウルで仕事?」
「はは、まさか。またオマエと旅行しようと思ってさ。韓国なら1泊2日で帰れるし」
「…だと思った」
「着いたら一緒に焼肉でも食いに行こうぜ」
「……うん」
「塔矢さん、機内手伝ってくれる?」
「あ、はい」
「オレも行こうっと」
他の乗務員に早くと急かされて、僕らは機内へと向かった。
成田発ソウル・仁川空港行きのこの人気路線のジャンボジェット。
僕が担当するビジネスクラスには50名のお客様が乗っていて、8割がたがビジネスマン、旅行客は2割。
7割が日本人で3割が外国人だ。
外国人のほとんどが当然韓国人なので、僕はもちろん韓国語で対応する。
「お姉〜さん、オレにも韓国語で話しかけてみてよ」
「進藤…。分からないくせに」
「いいから」
『…お飲みものはいかがなさいますか?』
「コーヒー下さ〜い」
『砂糖とミルクは使われますか?』
「あ、ブラックで」
…驚いた。
話すこと出来なくても、聞き取りは完璧だ。
「へへ、最近は永夏とも余裕で話せるんだぜ。あいつも日本語の聞き取りは出来るから」
「へぇ…」
「ちなみにこの後秀英と永夏と待ち合わせてるんだ。二人共ビックリするだろうな〜塔矢がスッチーだって教えたら」
「…残念だけど、彼らはもう知ってるよ。春頃だったかな、僕の担当する飛行機に乗ってきたから」
「うそ…」
彼らだけじゃない。
ソウル線や北京線、台北線ではよく知り合いに会う。
口止めしたから公には出てないけど、僕がCAになったことは衆知のことだった。
僕の親しかった人で知らないのは…キミだけだよ。
「なんかすっげえショック…。なんでオレだけ知らなかったんだ…」
「……」
なんで?
それはキミが一番よく知ってるだろう?
NEXT