●SHIYOU 1●






「帰らないと…」

「いいじゃん、今夜は泊まっていけよ…」

「……」

「一眠りして起きたらさ、もう一回しようぜ」

「……」



進藤の部屋の、進藤のベッドの上の、進藤の腕の中。

僕は今、とんでもない所にいた。

僕は今日初めて、ライバルであるはずの進藤ヒカルと……寝た。


きっかけは突然。

彼がふと思い付いたように、「しよう」と言いだしたのだ。

囲碁サロンでいつものように二人で打っていた時だった。




「…しようって、何を…?」


一応確認する僕に、彼は構わず続けた。


「オレ、オマエと一回してみたい。碁を打ってる時の男みたいな塔矢しか知らないから。女の塔矢が知りたい。セックスの時はいくらオマエでも女になるだろ?」

「………」


…女の僕を知ってどうするつもりなんだろうか。

でも僕はノーと言わなかった。

イエスとも言わなかった。



碁会所を出た僕は、進藤に連れられて彼の部屋にやってきた。

もう3年も住んでるらしい彼のこの部屋に、足を踏み入れたのは今日が初めてだった。


「汚い部屋…。掃除ぐらいすれば?」

「大丈夫。寝室はきれいだから」


寝室が綺麗だからって、何が大丈夫なんだろうと思いながら、そのベッドの置いてある部屋に入った。

確かにこの部屋は綺麗だ。

ベッド横のデスクに、昨日発売されたばかりの囲碁雑誌が置いてあった。

表紙は僕。

巻頭の数ページも僕の特集。

開いてたのは、僕の結婚観についてのインタビューが載っているページだった。

確か…今はまだ全然考えられないけど、いつかは結婚したい、子供も産みたい…みたいなことを答えた覚えがある。

ライバルにはあんまりそういうのを読まれたくなくて、恥ずかしさで自然と顔の温度が上がった。


「…こういう雑誌用に撮った写真の塔矢ってさ、いつもすっげー女っぽく写ってるから、勘違いする男いっぱいいそうだよなぁ」

「わ、悪かったな。そりゃあキミはこんな写真一枚に騙されたりしないだろうけどね」

「オレだって騙されたよ。勘違いしたから、今日オマエをここに連れてきたんだ。本当に女の塔矢が知りたくて…」


進藤が手招きしてきた。

恐る恐る近付くと―――抱きしめられた。

堅くて広い胸。

初めて感じた男の人の体に、僕の体は直ぐさま固まった。


恥ずかしいことに、僕はまだ一度も男性経験がない。

24年間、囲碁の為だけに生きてきたからだ。

恋愛ごとには皆無な生活だった。

それでも構わなかった。

打てるだけで十分に幸せだったから。


…でも、たまに感じる劣等感。

街でカップルとすれ違うと、本当は羨ましく思った。

恥ずかしげもなく公衆の面前でいちゃつく彼らを見て、実は僕もしてみたいと思っていた。


もちろん、本気でしようと思えば出来たのかもしれない。

自慢じゃないが、これでも今までに数え切れないぐらいの男性に交際を求められたことがある。

お見合い話だって何件、何十件断ったのだろう。

我ながら堅い女だと思う。


それなのに、進藤の「しよう」の一言にはノーを言わなかった。

相手が進藤だったから?

それとも、もう潮時だと感じていたからだろうか……




「柔らかい…。やっぱ女なんだな」

「…そういうキミもね。ちゃんと男だ」

「当たり前。な、服…脱がしてもいい?」

「…いいよ」


承諾するとすぐに、進藤の指が僕のボタンを一つずつ外し始めた。

初めて異性に見せる肌。

緊張と恥ずかしさで俯いたままになる。

頑張って平気なフリをしてるけど…


「きれい…」

「そ、そう?」

「うん。ブラも取るな…」

「……」


進藤の右手が、慣れた手つきで後ろのホック外した。

あらわになった乳房に早速触れてくる。

びくっと、思わず反応。


「思ってたよりあるな。C?」

「う…ん」

「ふーん…」


両手で何度も何度も揉まれる。

先をクルクル弄れて、摘まれて、執拗に攻めてくる。


「…ゃ……」

「塔矢、こっち…」

「え…?」


進藤に押されて、ドサッとベッドに倒された。

僕の上に彼が乗ってくる。


「ひゃ…ぁ」


いきなり乳首を口に含んできたので、彼の後ろ髪を引っ張って抵抗した。

でも、離してくれるどころか、どんどん調子に乗って攻めてくる。

痛くて、こそばゆくて、気持ち悪くて、気持ちよくて。

訳わかんなくなってきて……涙が溢れてくる。


「しん…ど……」

「大丈夫か?」

「………」

「こっちもいい?よな?」

「え…?」


ズボンにも手をかけられた。

その次は下着。

あっという間に一糸纏わない、生まれたままの姿にされる。

続いて進藤の方も服を脱いできた。

初めて見る男の人の体は…思ったよりもずっと綺麗で、つい見入ってしまった。


「寒い?鳥肌立ってる…」


僕の二の腕に触れてきた。

別に寒くない、と頭を横に振ると、ふーんと頷いて、また僕の胸を弄り始めた。


「…ぁ…っ」

「可愛い乳首。もしかしてオレが一番乗りだったり?」

「……うん」


正直に頷いた。

進藤の口元が微かに緩んだ気がした。


「…じゃ、こっちももちろんオレが初めて?」


右手が胸からどんどん降りて…おへそにお腹…そして僕の一番大事な部分へと移動していった。


「ひゃ…っ」


いきなり中心を触られて、思わず脚を閉じる。


「大丈夫、優しくするから」

「…う…ん」


彼の手で、僕の脚が開かれた。

触られるのももちろん恥ずかしいけど、見られるのもものすごく恥ずかしい。

でも、進藤の方も裸。

恥ずかしげもなく男の人の象徴を僕に見せてきていた。











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