●SEINA V 3●





数日前――私は私の棋士人生最後の対局を終えた。



相手は彩だった。

終局後、一緒に夕飯を食べに行って、その時に私は彼女からプレゼントを貰う。


「精菜、お兄ちゃんと一緒に使ってね♪」


箱の中身は――色違いのペアルックのパジャマだった。












「……ぁ……」


せっかくなので、彼女から貰ったパジャマを着ていた私達。

でも、着ている時間はほんの僅か。

直ぐ様佐為にボタンを外されていき、露になる肌に口付けられる。

舌も這わされて、痕も付けられる。


佐為は私の体にキスマークを付けるのが好きだ。

エッチする度に付けて、その痕が消える前に再びエッチするのが目標らしかった。

もちろん外から見える場所には絶対に付けない。

でも、もちろん脱げば見えてしまう。



(あれは恥ずかしかったなぁ……)






********






去年の秋に行われた女流本因坊戦挑戦手合・第一局。

会場は岩手の温泉旅館だった。


前夜祭の後、私が温泉に浸かって微睡んでいると、

「あれ?精菜ちゃん?」

とおばさまも入って来たのだ。


もちろん、私とおばさまは毎回タイトル戦で顔を合わせている。

温泉でバッタリもよくあることだった。

ただ、その時はタイミングが悪かった。

忘れていたのだ――前日に佐為と体を合わせたばかりだということを。

しかもその頃はお互い忙しく、その時も会うのが10日ぶりくらいだった。

もうお互い止まらなくて一晩で4、5回はシた後。

当然体中のあちこちにキスマークが付いていた。



「……あ」

「え?」


おばさまの目線の先は私の胸にあった。

何だろうと私も見ると――見事に痕が見えていて。

私は慌てて手で覆って隠したのだった。



「……佐為の部屋にはよく行ってるの?」

「え?!あ、いえ、そんなには。週に一回くらいだし、彩に比べたら全然です!」


恥ずかしさに思わず、まるで言い訳するかのように捲し立ててしまった。

おばさまが眉を傾けてくる。


「彩には困ったものだね…」

と溜め息を吐いていた。

「京田君に申し訳ないよ…」

「ふふ、ほぼ毎日ですもんね」

「ヒカルに似ちゃったのかな、限度を知らないところは」

「おばさま愛されてますもんね」

「本当に」


嘘でも否定しないおばさま。

きっと今でもおじさまから求められまくっているんだろう。


……いいなぁ。

佐為もおじさまみたいにならないかなぁ。

結婚して20年以上経っても、奥さんを愛しまくってくれる旦那さんに。

世の中には20年も経ったら、全く夫婦生活のないレスな夫婦も多いそうだ。

私達はそうなりたくないなぁ…。



「佐為もヒカルの血を引いてるから、精菜ちゃんも結婚したら大変だと思うけど。頑張ってね」

「ふふ、旦那の相手が大変で……とか、一度は言ってみたいですね」






********






結婚初夜に私ってば何を思い出してるんだろう。

何で早からレスの心配なんてしてるんだろう。



「…精菜?どした?」


愛撫してるのに私の反応が薄いからか、佐為が中断して私の顔を覗いてきた。


「……佐為はお義父さんのこと、今はどう思ってる?」

「え?」

「昔は呆れてたでしょう?いつまで経ってもお義母さんにベタベタしてるお義父さんのこと…」

「…そうだな。今でも呆れてるよ」

「……そうなんだ」


ちょっとだけショックだった。

呆れてるということは、佐為はきっとお義父さんみたいになりたくないんだ。

年甲斐もなく奥様を愛しまくる人に――



「あ、勘違いするなよ精菜。僕が呆れてるのは、子供の前でも関係なくいくつになってもベタベタイチャイチャしてるところだからな」

「え…?」

「昔僕が言ったこと覚えてる?」

「何だっけ…?」


佐為が耳許で、もう一度だけ教えてくれる。

私が小学4年の時に彼から言われた台詞だ。




――僕らは二人きりの時と子供の前と、ちゃんと区別出来る親になろうな――




「二人きりの時は、ずっと…死ぬまでイチャイチャしよう」

「佐為……///」


私はぎゅっと旦那様の胸に抱き付いた。


「うん、うん…!私も死ぬまでイチャイチャしたい。佐為に10年後も20年後も求められたい」

「はは、精菜一体いくつで死ぬ気?20年っぽっちなわけないだろ?」

「え…?」

「最低でも50年だよ」



笑顔でそう告げられて、私は間違いなくこの旦那様はお義父さんの息子だと悟ったのだった――









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最低でも70までするらしいです…