●SEINA 2●
「10日だけは空けておいてって言ったでしょう??」
「仕方ないだろう、仕事が入ったんだから」
「崎本夫妻主催のパーティーなのよ?!私一人で行けって言うの!?」
夕方――彩の家から戻ると、リビングから両親の怒鳴り声が聞こえた。
普段は優しいお母さんが、珍しく金切り声をあげている。
久しぶりに聞いた両親の会話がこんなのだなんて…最悪。
私はリビングを素通りして、逃げるように自分の部屋に閉じこもった――
♪〜♪〜〜♪〜♪
しばらくベッドの布団にうずくまっていると、何やら着信音が聞こえた。
携帯に手を伸ばすと―――佐為だった。
ピッ
「…もしもし?」
『精菜?』
「うん…どしたの?」
『それはこっちのセリフ。今日元気なかったじゃん…何かあったのか?』
「……別に」
『隠してもバレバレだからな。何年一緒にいると思ってんだよ』
「……」
『僕にも話せないようなことなのか?』
「……」
うん…話せない。
話したってきっと分かってくれない。
だって佐為の両親はあんなに仲がいいもん。
仲の悪い両親を持つ私の気持ちなんて、絶対に理解出来ない――
『精菜?』
「ごめん…もう夕飯の時間だから切るね」
『え…』
「またね」
ピッ
携帯を切った後、私は恐る恐る一階に戻り…リビングのドアを開けた――
「精菜、帰ってたのか」
「…うん」
リビングにはお父さんしかいなかった。
「お母さんは?」
「会社に戻った」
「…そうなんだ」
「夕飯どうする?食べに出るか?」
「ううん…私はお母さんが今朝作ってくれたのがあるから」
「じゃ、俺は自分で作るとするか」
「……」
お母さんは私の分の食事は作ってくれるけど、お父さんの分は絶対に作らない。
そういえば三人で一緒に食事なんて…もう何年もしてない気がする。
いっつも一人だ。
今日はお父さんが一緒だけど、食べるものは違う。
なんだかなぁ……
「…お父さんは、どうしてお母さんと結婚したの?」
耐えられなくなって、聞いてみた。
「何だ急に?」
「昔は好きだったの?」
「はは」
鼻で笑われた。
「子供に話すことじゃないが、玲菜を好きだなんて、一度も思ったことがない」
「じゃあ何で結婚したの?」
「結婚してた方が何かと有利だからだ」
「それだけ?」
「ああ」
「……」
聞かなきゃよかった……
「ま、お前はそんな結婚するなよ。こんな親でも子供には幸せになってもらいたいからな」
「…うん」
「無理して棋士にならなくてもいいからな」
え…?
「アキラ君の子供達に合わせてるんだろう?」
「でも碁は…好きだよ。彩と違って一生続けようとまでは思ってないけど…」
「ああ、それでいい」
「ていうかお父さん…よく気付いたね」
「一応父親だからな。俺が塔矢先生の家に行く時付いてきたがるのも、どうせあの佐為君に会いたいからだろう?」
「…うん」
「玲菜も別に会社を継いでほしいとかは思ってないそうだ。ま、口ではそう言ってても本心はどうだか知らんがな。くえない女だからな…アイツは」
「……」
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