●SEINA 3●






お母さんは日付が変わる頃になって、ようやく帰ってきた。


「お帰りなさい、お母さん」

「精菜ちゃんまだ起きてたの?明日研修日でしょう?」

「大丈夫」


冷蔵庫からワインを取り出したお母さんは、それを飲みながらまたパソコンを開いた。

お母さんに向かい合って座ってみる。


「…ねぇ、お母さん」

「なぁに?」

「お父さんのこと、好き?」

「嫌いではないわね」

「その程度?じゃあ何で結婚したの?」

「別に結婚するつもりもなかったのよ。あなたさえいてくれればね。でもあの人が結婚してもいいとか…訳の分からないこと言い出して。その方が仕事がスムーズにいくことが多いとか…ようするに乗せられちゃったのね、私」

「ふぅん…?」

「精菜ちゃんはこんな結婚しちゃ駄目よ。好きな人といい家庭を作ってね」

「…お父さんと同じこと言うんだね、お母さんも」

「あらやだ。一応夫婦だから似てきちゃったのかしら」


ちょっと嫌そうだ。


「離婚…はしないよね?」

「ええ、してもしなくても同じだから。お互いの生活や仕事に干渉しない、口を出さない。元々そういう約束だもの」

「仮面夫婦…だね」

「あら、そうでもないのよ?夜は結構仲がいいもの。…て、小学生の娘にする話じゃないわね。忘れてね」

「……」


小学生でも、マンガのおかげでそれなりに知識はある。

お母さんの言ってる意味くらい分かる。

でも、当然免疫はない。

真っ赤になった私は、お母さんに「お休み」とだけ言って部屋に逃げた。






……驚いたぁ。

お父さんとお母さん、まだ一応夫婦生活続いてるんだ?

じゃあじゃあ、たまに両親の部屋から聞こえてくるお母さんの泣き声……本当は泣いてるんじゃなかったのかな?

今までケンカしてお父さんがお母さんを泣かせてるのかと思ってた。

でも本当は……


やだ、やだやだやだー!

何想像してんのよ!精菜のエッチ!




♪〜♪〜〜♪〜♪〜


再び携帯がなった。

また佐為からだ。

急いで深呼吸して気持ちを落ち着かせて、通話ボタンを押す。


「もしもし?佐為…?」

『精菜??やっと出た!』

「…心配してくれてたんだ?」

『当たり前だろ!一応…彼氏だし』

「一応?」

『や、ごめん。一応じゃないよな』


焦ってる佐為の声にクスッと笑ってしまった。



「ねぇ…佐為」

『ん?』

「私達…佐為のお父さんとお母さんのようになれるかな?」

『は…?』

「私ね、佐為ん家みたいな温かい家庭が作りたい」

『は?どこが温かいんだよ。絶対に真似したくない夫婦の見本だし』

「佐為にとってはそれが普通だから、有り難みが分かってないんだよ」

『そうか…?いや、絶対に違うな。母親が17で僕を産んでる時点でもうありえないし』

「私も17で産んじゃおうかな♪」

『…………』


黙っちゃった。

きっと想像して真っ赤になっちゃってるんだろうな。

さっきの私と同じだね。



『えっと…緒方先生、玲菜さんと上手くいってないのか?』

「もう愛の『あ』の字もないよ。冷え切ってるもん。……て、さっきまで思ってたんだけど、もしかしたら違うのかなぁ?」

『うん、きっと精菜が知らないだけだと思うよ。僕だって、今回お母さんが妊娠するまでは、うちの親はお父さんの一方通行だって思ってたぐらいだし』

「えー?あんなにラブラブ夫婦なのに?」

『子供は意外と気付かないもんなんだって』

「ふぅん…?」


でも佐為曰く、親の仲良し度はそこそこでいいそうだ。

いい歳してベタベタされても子供は困る…と。

(確かにおじさんはおばさんにベタベタだもんなぁ…)


『僕らは二人きりの時と子供の前と、ちゃんと区別出来る親になろうな』

「そうだね」


といってもまだまだあと10年は先の話だ。

でも10年後も佐為と一緒にいれたらいいなぁ…と思った。










「おはよう、精菜ちゃん」

「おはよう、精菜」


翌日――朝ご飯を食べにダイニングに行くと、珍しいことに二人ともいた。

しかもお父さんがお母さんの作った朝ご飯を食べていた。

お母さんがお父さんの分を作ったのにもビックリだけど、それをお父さんが食べてるなんて……


「精菜ちゃんが今日研修から帰ってきたら、たまには精次さんと三人で外食しましょうか」
「え……?」


いったいどういう心境の変化??と困惑してると、二人が申し訳なさそうに話し出した。


「精菜ちゃんに仮面夫婦って言われて、私達ちょっと反省したの。お互い子供の気持ちも考えずに自分勝手し過ぎたわね…」

「お母さん…」

「研修がなければ今から…どこか精菜の行きたい所に連れていってやってもよかったんだがな」

「お父さん…」


涙が滲んだ。


「私、今日研修休む!一度でいいから三人で遊園地…行ってみたかったんだもん」


柄にもなく、子供っぽいリクエストをしてみた。

でもこんなチャンス、もう二度とないかもしれないから。


「あら遊園地?何年ぶりかしら。いいわね」

「じゃあ白川には俺の方から連絡しておこう」

「ありがとう。お母さんお父さん」


私はぎゅっと二人に甘え抱きついた――








ちなみにこの日以来、私達家族は少し変わることになる。

食事はよほどの用事がない限り必ず三人で取ることになったし、休みの日に三人で出かけることも多くなった。

お母さんは家でも出来る仕事は出来るだけ家でするようになったし、お父さんは朝に帰ってくることもなくなった。

冷たい青のイメージから徐々に黄色に、そして赤になる日もそう遠くないかもしれない。

もう逃げ出したいなんて思わない。


大好きだよ、お父さんお母さん――










―END―











以上、精菜の話でした〜。
精菜ちゃん…実は囲碁棋士目指してないみたいですね。(なぜかそうなっちゃいました…)
院生一位に勝っちゃう実力も持ってるのに勿体無〜い。
でも彩に引きずられて学生の間はプロをしてそうだなぁ…。
卒業と同時に辞めて、お母さんの会社に入ったり?(笑)
これからどうなるのか楽しみですv

さて、ボロボロだった緒方家。
ようやく家族の絆が一つになったみたいですよ〜(笑)
緒方先生もこれを期に女遊びを卒業してくれればいいんですがね。
ま、とりあえず朝帰りはしなくなったみたいです。前進前進v
玲菜さんもちゃんと緒方先生の分の食事も作るようになったみたいだし、ね。
もう少し若ければ妹か弟も作ってあげたんですけどね。残念。