●SEARCH 2●





(あら……?)


検索結果は私の予想と違っていた。

息子の彼女はこの人!!という表記はどこにもなかったのだ。

どのページもあくまで推測の域。

少しだけ拍子抜けしながら、私は表示を『すべて』から『画像』に変えた。

すると息子が女の子とツーショットで写ってる写真が大量に表示されて驚く。


「い、囲碁棋士って意外と女性との交流もあるのね…」

と毛利さんも驚いている。


表示されたのは、ほとんどが囲碁イベントでの写真だと思われた。

大盤解説をしている息子と聞き手の女流との写真。

もしくはファンの女の子との記念写真。

表彰式や就位式で撮られたと思う写真も多かった。


「式典関係だと、この進藤彩女流三段て女の子との写真が一番多いわね」

「そ、そうね…」

「この子ちょっとググってみたら?」

「ええ…」


今度は《進藤彩》と検索する。

表示された検索結果を見て納得した。

師匠の進藤先生の娘さんらしかった。

海王高校1年生の16歳。

(娘達と同い年なのね…)


「それにしても可愛い子ね、アイドルみたい」

「本当にね…」

「昭彦君もこんなに可愛い子なら好きになっちゃうんじゃない?」

「ふふ…そうよね」


再び息子の写真のページに戻る。

確かに意識して見ると、進藤彩さんとのツーショット写真は多い。

仲はかなりいいらしい。

お盆の帰省の時、息子は彼女がいるとハッキリと頷いた。

もしそれが他の女性だとしたら、進藤彩さんとこんなにも仲良く大量に写ってるのは、例え師匠の娘だとしても恋人に失礼なんじゃないだろうか。

だとしたらやっぱり息子の彼女はこの進藤彩さん…?



「やだ、京田さんこれ見て!」

「え?」

毛利さんが見つけたのは息子の浴衣の写真だった。

どうやらどこかのブログにアップされていた写真らしい。

そのブログを開いてみると――


『進藤十段 in箱根』というタイトルの先月末の日記。

進藤十段というのは囲碁を打たない人でも知っている国民的スター棋士だ。

息子の兄弟子にあたる。

(管理人は進藤十段の熱狂的ファンらしかった)

この日記によると、その進藤十段が棋士仲間数人と箱根に温泉旅行に行ったらしい。

その中に息子もいたらしいのだが……

アップされていた盗み撮り写真の中の1枚が、息子と進藤彩さんとの浴衣ツーショットで。

しかも二人は手を繋いでいるのだ!

これはもう誰がどう見ても決まりだろう。


「京田さん、やっぱりこの子が彼女で間違いないわよ!」

「え…ええ、私もそう思うわ」


私がお盆に持たせたアップルパイ。

この子と一緒に食べてくれたのかしら。

でもさっき検索した通り、彼女はまだ16歳の高校1年生だ。

このまま上手くいったとしても結婚はまだまだ先の話だろう。

ということは、息子が彼女を家に連れてくるのはまだまだ先ということ。

残念だ。




「毛利さん、今日は来てくれてありがとう」

「こちらこそ、お土産まで戴いちゃって」


帰り際、私は毛利さんに手作りのパウンドケーキを手渡した。


「息子の彼女が分かって、ちょっと安心したわ。毛利さんのお陰よ」

「素敵な子で羨ましいわ。早く親にも紹介してくれるといいわね」

「本当にね」













お正月、新年の挨拶がてら再び帰省してきた息子。

「お兄ちゃんお年玉ちょーだい♪」

と言う妹二人に、「はぁ?」と言いながらも優しい兄は「高校卒業するまでだからな」と渡していた。


皆でおせち料理を食べてる時、妹が兄に聞いた。

「お兄ちゃん、彼女さんとは上手くいってるの?」

途端に息子は噎せだした。

「あ、もう別れちゃった?」

との問いには

「そんなわけないだろ」

と即座に否定していたから、今も無事続いてるんだろう。



そのあと家族で初詣に行った時、息子は20代半ばくらいの女性に呼び止められていた。

「囲碁棋士の京田先生ですよね?」と。

「ファンなんです。よかったらサインいただけませんか?」と。

「いいですよ」と少しの躊躇いもなく承諾した息子は、渡された手帳にサラサラと手馴れた手つきでサインし出した。

「来週の十段戦頑張って下さい。私、兄弟弟子対決になるのめちゃくちゃ楽しみにしてます!」

「ありがとうございます。頑張ります」

棋士としての息子の一面を初めて見た瞬間だった。

「お兄ちゃんにもファンなんているんだね」

プププと娘達は笑いながら兄を冷やかしていたけれど、私は棋士として頑張ってる息子を誇りに思えた。



初詣から戻ると、「じゃ、もう帰るから」と夕飯も食べずに帰ろうとする息子に、「ケーキ焼くからちょっとだけ待って」と引き止める。

「母さん……正月からケーキなんて食べたら太るからいいよ」

「そんなに大きいのにしないから」

ちゃんと二人で食べきりサイズにするから安心して、というと息子は口を噤んだ。

作ってる間、ダイニングで携帯を弄りながら待っていてくれる息子に訊ねる。


「そういえば初詣で十段がどうとか言われてたわね」

「ああ…うん。来週準決勝があるんだ」

「そうなのね」

「相手倉田先生だから厳しいけど」

「兄弟弟子対決って?」

「うん…その準決勝に勝って、最後決勝にも勝てたら挑戦者だから」

「進藤名人と?あら…すごいわね」

「まぁ今の進藤君に番勝負で勝てる気しないけどね」

「ふふ、三冠ですものね」


十段に引き続き11月に名人を、12月に王座を奪取した息子の兄弟子、進藤佐為名人。

お昼のワイドショー曰く、向こう20年は段位で呼ばれることはないだろうと言われている囲碁界最強のプリンスだ。


「明日はその進藤君と早朝から一緒に初詣に行く約束してるから、今日は泊まらずにもう帰るよ」

「あら、進藤名人と二人で初詣?すごいわね」

「……二人ではないけど」

息子の頬が少し赤くなった。

ふむ、どうやら進藤彩さんも行くらしい。



一時間後、出来上がったケーキを息子に持たせた。

「じゃ、また」

「ええ。進藤さんによろしく」


進藤さん――それは一体誰を指してるんだろう。

師匠の進藤本因坊?

兄弟子の進藤名人?

いいえ、もちろん彼女の進藤彩さんよ。

息子も何かを感付いたみたいで、また少し頬を赤めながら出発した。


いつか私達家族にも、『彼女の彩さん』を紹介してね――









―END―








以上、京田母から見た京田さんでした〜。
母親にググられる京田さんです(笑)

どうやら箱根旅行は全国どこにでもいる佐為ファンの1人に見つかっていたらしいですw
もちろん外では常時メガネにマスクな佐為ですが、他の旅行メンバーが全く隠してないので、囲碁ファンから見たらバレバレだったみたいです(笑)
もちろん用心深い佐為は外では常に精菜から離れていますが。
おそらく彩と京田さんは堂々と手を繋いでベタベタしてたんでしょうなw
(別にバレても構わないもん。by 彩)
ちなみに初詣を早朝に行くのもなるべく佐為ファンから見つからないようにする為です〜。

ちなみにちなみに、元旦の夕方、家に帰ると彩が待ち構えています。
それはもちろん京田さんが実家に帰る度にお菓子を持たされることを知ってるからです。
夕飯の後、仲良く一緒にケーキを食べる二人なのでした〜。チャンチャン

ちなみに京田さんが彩を家族に紹介するのは本当に結婚の挨拶の時ですよw(5年後)
その辺は2020年6月9日の日記参照で!